なぜ同じ世界でも感じ方が違うのか 感覚からひも解くインサイドアウト健康文化
世界は外にあるのではなく、内側で立ち上がっている
私たちは「世界を見ている」「音を聞いている」「触れている」と、自然に言葉にします。
けれど実際には、世界そのものが直接、私たちの中に入ってきているわけではありません。
体は、外界とのあいだに精密なフィルターを持ち、選び、変換し、意味づけした情報だけを、内側に通しています。
その役割を担っているのが、感覚系です。
感覚とは、世界を受け取るための入り口であり、同時に、体と世界を隔てるバリアでもあるのです。
感覚は「感じる装置」ではなく「翻訳装置」
感覚器は、外からの刺激をそのまま脳へ運んでいるわけではありません。
光、音、匂い、味、圧力、温度、それらはすべて、物理的なエネルギーです。
感覚器は、そのエネルギーを神経が理解できる電気信号へ翻訳し、はじめて「見える」「聞こえる」「心地よい」「危険だ」という体験が生まれます。
つまり私たちが感じている世界は、外界そのものではなく、体が内側で再構築した世界なのです。
五感は、命を守るための五つの知恵
視覚 ― 危険と可能性を瞬時に見分ける力
目は、美しさを楽しむためだけの器官ではありません。
距離、動き、光と影を瞬時に判断し、衝突や転倒といった危険を避けるために発達してきました。
「見る」という行為は、未来を予測し、命を守るための高度な判断なのです。
聴覚 ― 見えない情報を先に察知する力
音は、視覚よりも早く状況を知らせます。背後の足音、声のトーンの変化、空間の広がり。
耳は「聞く」器官であると同時に、空気の変化から安全を読み取るレーダーです。
嗅覚 ― 危険と安心を瞬時に分ける力
腐敗、煙、化学物質。嗅覚は、命に関わる危険を言葉よりも早く察知します。
同時に、記憶や感情と深く結びつき、「懐かしい」「安心する」という感覚を呼び起こします。
これは、生き延びるための情動センサーです。
味覚 ― 体に必要なものを選び取る力
甘味はエネルギー源、苦味は警告。味覚は、食べるという行為を通して、体に必要なものと不要なものを選別しています。
「おいしい」という感覚は、体が「それは今の自分に必要だ」と判断しているサインでもあります。
触覚 ― 境界を知り、安心を感じる力
皮膚は、最大の感覚器官です。触れることで、危険を避け、同時に、人とのつながりや安心感を生み出します。
触覚は、自分と世界の境界を知るための感覚なのです。
感覚があるから、体は「守りすぎない」
感覚系が優れているということは、体が「過剰に反応しなくて済む」ということでもあります。
正確に感じ取れるからこそ、必要なときだけ反応し、不要なときは静かでいられる。これは免疫や神経の働きとも深くつながっています。
感覚が鈍ると、体は不安定になり、防御反応を強めすぎることがあります。
つまり感覚系は、体の過剰な緊張を防ぐ調整役でもあるのです。
インサイドアウト健康文化の視点
感覚は、外の世界を決定づけるものではありません。外の刺激に「どんな意味を与えるか」を決めているのは、内側です。
同じ音を聞いても、ある人は安心し、ある人は不安になる。違いを生んでいるのは、外ではなく、内側の状態です。
インサイドアウト健康文化とは、感覚を遮断することでも、刺激を減らすことでもありません。
内側の状態を整えることで、世界の感じ方が変わるという事実を思い出す文化です。
最後に
世界は、外にあるようでいて、実はいつも、体の内側で立ち上がっています。
感覚器は、世界を取り込む窓であり、同時に、命を守る賢いバリアです。
その精密な仕組みに気づいたとき、私たちはもう、体を信用しない理由を失います。
体は、感じるために生まれ、守るために感じ、そして、生きるために世界を内側でつくっている。
それこそがインサイドアウト健康文化が伝えたい、感覚という叡智なのです。

執筆者塩川カイロプラクティック塩川 雅士D.C.
1980年、東京都生まれ。17才で渡米後、2004年パーマーカイロプラクティック大学を優等で卒業。D.C.の称号取得。米国ナショナルボード合格。日本カイロプラクティックリサーチ協会(JCRA)役員。2005年からカイロプラクターを育成する学校の運営と講師に携わり、現在、年間約300時間の講義やセミナーなどの活動を全国で精力的に行っている。