
“周りの人からも落ち着いてきたねと言われました!”
他の整体院で頭蓋骨矯正を受けていた際、「頭の骨がずれている」と指摘されたことがきっかけとなり、当院を紹介されて来院されました。お子さんは、ASD(自閉スペクトラム症)と神経発達症、さらにADHD(注意欠陥多動性障害)の診断を受けており、普段の生活の中では、手で自分の体を叩いたり、パンパンと手を鳴らす行動が頻繁に見られ、落ち着いてじっとしていることが難しい様子でした。特に、会話中に集中して人の話を聞くことができず、学校や日常生活においても、周囲との関わりに支障を感じる場面が多かったようです。
ご両親としては、お子さんがこれからの社会生活を安心して送れるように、また、本人らしくのびのびと過ごせるように、できるだけ早い段階で体と心のバランスを整えてあげたいという強い思いを抱かれていました。「将来、本人が困らないように。今のうちに少しでも力になりたい」という気持ちで、来院を決意されたそうです。
顔まわりや体にも緊張が見られ、鼻をいじる、体を常に動かしているなどの多動的な動きも見られましたが、その一方で、家族の中でも特に印象的だったのは、お子さんの“興味のあること”への集中力でした。車が好きで、メーカー名や車種を一言一句たがわず覚えていたり、大好きなアニメやテレビ番組を見ているときの集中力は、他の誰よりもすごい、とご家族は感じていました。その姿を見たとき、「この子には本来、とても強い集中力があるのではないか」「環境や体の状態を整えることで、その力が日常にも活かされるのではないか」と希望を持つことができたといいます。
その可能性を信じて、「今よりももっと、この子の良さを伸ばしてあげたい」「本人の持っている力を引き出してあげたい」という願いを胸に、当院でのケアをスタートされました。
落ち着きがない状態でコミュニケーションも取りにくい
返事が単調、1会話の語彙が1〜2単語程度
右の胸鎖乳突筋の過緊張
頚椎側面像では、C6の椎間板がD2~3と慢性化が少しずつ始まっていることが確認できるため、初期集中期として週に1回のケアを推奨し、実際に開始することとした。
3週目(3回目のアジャストメント)では、お母様から見た大きな変化は感じられないとのことであるが、以前よりも頚椎1番の動きがで初めて、かつ神経圧迫も少しずつ落ち着きを見せ始めている。また、こちらから観察した感覚では以前よりも場慣れしたこともあるからか、コミュニケーションが取れるようになってきた印象である。
7週目(7回目のアジャストメント)では、お母様から見ても、学校の先生から見ても落ち着きが少しずつ出てきたとのことであった。特に、授業中に話を聞くようになったそうである。右の胸鎖乳突筋の緊張も少しずつ取れてきていて経過は良好であると言える。
16週目(11回目のアジャストメント)では、学校でテストがあった際に見直しをするようになったとのことであった。注意力も少しずつ回復を見せ、母親とのコミュニケーションが柔和になってきた印象である。以前は、母親が一方的に子供を叱り続けるような状況が主であったが、良好な関係性に見えた。術者である私とも、十分に会話を交えることができるようになっている。
現在は学校行事や、テスト期間などの合間を縫ってメンテナンスで来院をされている。
このお子さんのように、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)と診断される子どもたちは、実は「性格の問題」ではなく、脳や神経の働きに特有の特徴をもって生まれてきていることがわかっています。
その中でも、「自律神経」の働きが深く関係していることが最近の研究でわかってきました。自律神経というのは、自分の意志とは関係なく、体の状態を整えてくれている神経です。たとえば、心臓の鼓動、呼吸、体温の調整、リラックスしたり、活動的になったりすることなどもこの神経の働きです。
ADHDの子どもは、「報酬(がんばったら何かもらえる、ほめられる)」に対して体の反応が薄いことがあると言われています。また、ASDの子どもは、音や触れられることなどに対して、リラックスする神経(副交感神経)の働きが弱く、緊張しやすい傾向があるようです。
今回のお子さんに対しては、首の一番上の骨(第一頚椎)と骨盤の真ん中にある骨(仙骨)を中心に、神経のバランスを整えるケアを続けました。これらの場所は、体の緊張をゆるめ、自律神経のバランスをとるうえで、とても大事なポイントになります。
その結果、「落ち着きが出てきた」「人の話を少しずつ聞けるようになった」「お母さんとの関係がギスギスしなくなってきた」といった変化が少しずつ見られるようになりました。
こうした変化は、神経のつながりが変わったり、強くなったりしていく“神経の成長力(神経の可塑性・かそせい)”が関わっているのではないかと考えています。
また、脳の前の方にある「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という場所は、「集中する」「感情を落ち着ける」「人と関わる」といった働きをしています。この場所は、自律神経の働きや安心できる環境とつながっているため、体が整って安心感が増すと、自然と前頭前野も働きやすくなると言われています。
実際に、お子さんはもともと「好きなことにはすごい集中力を発揮する」力を持っていましたが、ケアを続けるうちに、それが生活の中でも少しずつ活かされていく様子が見られました。
「体の緊張がとれ、安心して過ごせるようになること」
これは、こういった発達の特徴を持つ子どもたちにとって、とても大切な土台です。
今回のような変化から、改めてそのことを強く実感しました。
執筆者塩川カイロプラクティック治療室関野 貴友
1999年、大阪府生まれ。19才より東海大学トレーナー専攻及び東京衛生専門学校のダブルスクールを行い、共に優等で卒業。鍼灸あん摩マッサージ指圧師を取得。のちに睡眠専門治療室NEOCHIを開業。2023年よりシオカワスクールのインストラクターを務め後進の育成にも力を入れている。