
小学3年生以来、口を大きく開けられるようになった!
小学生の頃から酷い顎関節症があった。きっかけは、小学3年生のときに歯の歯列矯正を受けて長時間口を開けていたら、口が閉じられなくなったしまったことからだった。
それ以来、右顎の違和感に長年苦しんできた。口を開け閉めするたびに、ガクンガクンと異音が鳴り、ハンバーガーのような大きく口を開けなければならない食べ物や、お煎餅のような硬い食べ物は食べられなくなってしまった。
中学生のときには、友人と会話をして大声で笑った拍子に、つい口を大きく開けて顎が外れてしまい、学校の先生に歯科医院まで連れて行ってもらったこともあった。歯科医院では食いしばりを指摘され、マウスピースを作った方がいいと言われたが、顎の違和感にはまったく効果がなかった。
高校に入学すると、睡眠の質がすごく悪くなった。寝入りに時間が掛かるようになり、早くても布団に入って2~3時間眠れないことが続き、酷いときには朝まで眠れないこともあった。
この頃から生理痛も酷くなり、最初の2日間は痛み止めを飲んでも動けずに、毎月のように学校を休むようになった。大人になり少し落ち着いたが、それでも痛み止めを飲んでも痛みを感じることが多かった。
高校3年生の大学受験シーズンのときに、突然激しい動悸に襲われ、倒れたことがあった。病院に運ばれて検査を受けると、頻脈性不整脈だと診断された。両親がものすごく心配して精密検査も受けたが、「脳にも心臓にも異常がないので、ストレスが原因ですね」と言われるだけだった。それ以来、緊張するようなシーンになると、自分の心臓の音が気になるようになった。
社会人になって通勤で長時間満員電車に乗っていると、腰がすごく反るような気がしていた。デスクワークの影響なのか、反り腰の影響なのか、腰痛を感じるようになった。小学生で顎に違和感が出てから、体の不調がずっと続いている状況に、このままだと長生きできないかもしれないと危機感を覚えるようになった。
学生時代と違って、社会人になってお給料をもらえる立場になっていたので、自分で調べてあちこちの治療院に通ってみた。接骨院、整体、鍼灸院、オステオパシー、ありとあらゆる治療院に行ったが、どこもいまいち効果が感じられなかった。カイロプラクティック院にも通ったことがあるが、体をユサユサと揺らされて終わってしまうところもあった。
すべての原因は顎関節からに違いないと思い、関東中の顎関節専門の整体院を調べて何度も通ったが、まったく効果がなかった。一度だけ、関西にある有名な顎関節専門の整体まで行ってみたことがあったが、顎を触られたことで余計に口が開かなくなってしまったこともあった。
何年間も「何か良い方法はないかな」と探していると、YouTubeで塩川満章先生の動画を見る機会があった。塩川先生の院は職場からも近かったので、一度受けてみたいと思ったが、塩川先生は新規の予約は受け付けていないと知った。
どうしても諦めきれず調べてみると、たまたま自宅の最寄り駅から数駅のところに塩川先生のお弟子さんが開院していることを知った。塩川先生の院では副院長を務めていた先生だと知り、これは30年以上の顎関節の違和感もなんとかなるかもしれないと期待して、当院に来院された。
第一頸椎右横突起にスポンジ状の浮腫
頸部右胸鎖乳突筋の過緊張
右仙腸関節の可動域制限
初診時の状態では、右の仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、上部頸椎と骨盤部に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また第一頸椎右横突起と右上後腸骨棘上端に強い浮腫が確認され、頚部胸鎖乳突筋と腰部起立筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD4レベルで重度の骨盤の傾きや過前弯で反り腰が確認された。首の椎間板の段階も慢性的なD4レベルが確認された。
初期集中期の段階では週2回のケアから開始したが、仕事がちょうど繁忙期でケア開始当初は間隔が空いてしまうことも多かった。ケア中盤以降は、仕事の予定も目途が立ったため、週2回のケアを受けられた。
4週目(3回目のアジャストメント)には、口が以前と比べると明らかに開けられるようになり、左右の顎からガクガク鳴っていた異音も少なくなった。
8週目(8回目のアジャストメント)には、顎がかなりスムーズに開けられるようになり、右顎周辺の違和感がほとんどなくなった。また、これまで痛み止めを飲んでも痛みを感じていた生理痛が、薬を飲めばほとんど痛みは感じなくなった。
13週目(15回目のアジャストメント)には、電車内で立っていると腰が反ってくるような違和感があったが、気づけば腰痛もなくなり本人も忘れているほどだった。また、20年以上あった生理痛が薬を飲まなくても痛みをまったく感じなくなった。
19週目(23回目のアジャストメント)には、この頃には顎の違和感はほとんどなくなり、試しにハンバーガーを食べてみたところ、口を大きく開けても痛みなどは一切感じなくなっていた。また、緊張するといつも心音が気になっていたが、会社でプレゼンをしてもそれほど気にならなくなった。
現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。
今回の顎関節症は、頚部のバランスの乱れが原因であったと考えられる。顎関節は人体の関節の中でも最も小さな関節の一つとなるため、頚部のバランスの影響を受けやすい部位となる。
顎関節の動きを司る神経は、三叉神経の第3枝である下顎神経が関与しており、今回アプローチをした上部頸椎とも密接な関係がある。今回のケースでは顎はほとんど直接触ることなく、上部頸椎の安定と共に神経機能が回復したことで、顎関節の動きもスムーズになったものと考えられる。
今回の検査では上部頸椎のみならず、骨盤部にも強い反応が確認された。上部頸椎と骨盤部はどちらも副交感神経支配の部位となる。副交感神経支配の部位にサブラクセーション(根本原因)があると交感神経が過剰に働いてしまう。
交感神経とは緊張した時やストレスが掛かったときに働く神経となるため、交感神経が過剰な状態とは、体が常に過緊張の状態であったと考えられる。
緊張していることで睡眠の質は低下してしまい、なかなか寝付けずに不眠症になっていたのだろう。また食いしばりも交感神経が過剰になっている人の特徴となる。体が常に過緊張を起こしていると、日常的に歯を食いしばるようになってしまう。
心臓に器質的な異常がなく出てしまう不整脈や動悸は、左の迷走神経が関与しているケースが多い。迷走神経と上部頸椎は密接な関係があるため、上部頸椎の不安定さは迷走神経に過度な負担を掛けていたと考えられる。
腰の生理的な弯曲(反り腰など)は骨盤部のバランスの影響を強く受けてしまう。人間には補正作用があるため、骨盤の変位によっては荷重が後ろに掛かる分、前後のバランスを取ろうとして反り腰のようになってしまうケースがある。今回は、その傾向が顕著に確認された。
腰の椎間板も6段階中慢性的なD4レベルが確認された。骨盤の左右にある仙腸関節でも補正作用が働くので、どちらかの仙腸関節の動きが制限されると、反対側は過剰に動いてしまう。すると歩くたびに腰部が捻じれるようになってしまう。
椎間板は捻じる動作に弱くできているため、どちらかの仙腸関節の可動域制限が掛かることで、腰部の神経に多大な負荷を与えていたと考えられる。また、強い生理痛もあったが、生理痛はプロスタグランジンという物質が関係している。
月経(生理)とは、女性にとって月に一度の“体の中のお掃除”となる。このとき子宮は不要となった子宮内膜を体外へ出そうとするが、プロスタグランジンが過剰に分泌していると、子宮が過剰な収縮を起こしてしまい、それが生理痛の要因になってしまう。
上部頸椎や骨盤という、どちらも副交感神経支配の偏った部位に負担が掛かることで、自律神経のバランスを乱した結果、ホルモンバランス異常も引き起こしてプロスタグランジンが過剰に分泌されていたと考えられる。
アジャストメントによって神経の流れが整ったことで体の情報が脳へ届いたことで、顎関節症のみならず、さまざまな症状の改善に繋がったと考えられる。あらためて、神経の流れを整えて体の情報を脳へ届けることの重要性が確認できる症例である。
執筆者前田カイロプラクティック藤沢院前田 一真
1982年、神奈川県生まれ。シオカワスクール在学中から塩川カイロプラクティック治療室にて内弟子として学ぶ。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。2023年に前田カイロプラクティック藤沢院を開院。一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくため、カイロプラクターとして尽力している。またシオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。