
1-2ヶ月前から続く左肩の痛みがあり、来院された。最初は違和感を覚え、徐々に痛みへと変わっていった。
きっかけは、仕事での弁当・惣菜・和菓子などの製造、販売をしており、10kgを超える米や食材の運搬を頻繁にしているからではないかと思っている。とにかく材料が重く、例えば3升釜を1日に8回ほど炊くのだが、そこに米、水が入るので、持ちあげて運ぶことが今はできなくて困っている。
痛みに気づいたのは、車の後部座席にあるものを運転席から置こうとした時にピキッときた。最近は服を脱ぐ動作で、手を交差して裾を掴む動作が難しく、手を袖の中にどうにか戻し入れて、脱ぐようにしている。また、肩を開く(胸を張る)動作でも痛みが出る。
睡眠は7時間取れていて、睡眠中に痛みで起きることはないが、肩が痛いため左側を上にして横向きで寝ている。
15年前からの吐き気を伴う慢性的な頭痛もあり、特に朝、目覚めた時から既に頭痛がしていて、家族に痛み止めの薬を持ってきてもらわないと動けないほどつらく、早朝の仕込みに行くのが大変に感じている。昼以降に頭痛は起きない。
10年前の交通事故の時、バイクで滑った経験あり。特に少しぶつけたかもしれないが、特に治療などはしていない。
肩の痛みが強くなったら、まるで仕事ができなくなるのではということと、着替えさえ手伝ってもらうようになってしまうのではという懸念がある。
当院へは、肩の痛みをなくし、日常生活や仕事での動作をスムーズに行えるようになりたくて来院された。
左仙腸関節の可動制限
左上後腸骨棘上部に窪んだ浮腫
椎間板の段階がD3であることから週2回の通院から始めるよう推奨したが、仕事の都合でなかなか空き時間をつくれないので、週1回でスタートした。
1週目(1回目のアジャストメント)は、左仙腸関節のFIXや浮腫が強く、頚椎・胸椎については可動性が全体的に低く、特定の椎骨を見つけることが難しかったため、そして背中のディッシングがあることから、骨盤部と肩関節のAI変位のアジャストメントのみに留めた。2回目から頚椎C6のアジャストメントを追加した。
5週目(5回目のアジャストメント)は、動作の改善が見られ、反対の肩を掴む動きや結滞動作、結髪動作、服を脱ぐ動作に改善は見られたが、未だにC6-T3までの椎骨の可動性は低かった。左仙腸関節の浮腫は少し軽減されており、可動性もついてきた。
6週目(6回目のアジャストメント)は、また肩の痛みが出てきたとのこと。C6ーT1の可動性はついており、この日だけT2PLSに変えてアジャストメントをした。
7週目(7回目のアジャストメント)は、肩を外転させることは難なくできるようになった。しかし、反対の肩を掴む動きや服を脱ぐ動作に未だ痛みがある。C7ーT3の可動性は著しく上がっていた。左仙腸関節も動きがついているため、神経はゆっくり着実に回復していることを伝えた。
8週目(8回目のアジャストメント)は、頭痛のことを尋ねると、最近頭痛が全然起きていないとわかった。15年間付き合っていた頭痛がなくなって驚いていた。
9週目(9回目のアジャストメント)は、仙腸関節の浮腫もほとんどなくなり、可動性も左右ついていた。肩もだいぶ動きやすくなったが、重たい物を持つとたまにまだ痛むことがあるとのことで、神経の回復はゆっくり進むことを伝えた。
11週目(10回目のアジャストメント)は、年末年始のため、2週間空いたが骨盤部の皮膚の質感は改善しており、浮腫もほぼない状態で可動性も維持ができていた。後ろに物を置く動作も問題なくできるし、頭痛も全くきていない。
今回の肩の後方部の痛みは、骨盤の可動性に左右差が生まれバランスを崩したことによって、背骨の補正が起こり、その負担の結果である。
人間の体の土台である骨盤のサブラクセーションをアジャストメントしたことで、補正によって負担がかかり可動性を失っていた上部胸椎や下部頚椎が可動性を取り戻したと考える。
椎骨が本来の可動性を取り戻したことによって、神経の圧迫が取り除かれ、神経の流れも回復した。脳と体を繋ぐ神経の流れが正常になることで、損傷部位の情報がしっかりと脳に伝達されるようになり、脳の適切な判断によって肩関節周囲の炎症が対処されていった結果、肩の動きの制限が取れ、症状の改善に繋がった。
15年続いていた慢性的な頭痛は、朝、寝起きによく起こるものであった。午前中の頭痛は体内の化学物質(毒素)の蓄積によるものである。通常、化学物質の蓄積については交感神経の機能低下によるもので、交感神経の支配領域であるC6ーL5の間に限定してアジャストメントを行うのが一般的である。
しかしながら、今回は副交感神経領域である骨盤部を毎回アジャストメントして改善されていった。経過としては、5回目のアジャストメントまで頸部から胸部にかけての椎骨は非常に動きが悪く、6回目以降は逆にとても動きが良くなった。
このことからも、骨盤部のサブラクセーションが取り除かれていったことで、上部胸椎・下部頚椎の動きが良くなったので、脊柱の補正反応であった可能性が高い。
そして、下部頚椎は甲状腺に分布する交感神経の経路上にあたる。甲状腺は、さまざまな臓器がスムーズに働くために必要なホルモンを分泌して、体の代謝をコントロールする臓器である。
甲状腺への神経伝達に異常が生じれば、分泌されるホルモンが少なくなり、さまざまな臓器の機能が低下していく。それが、脳への血液循環の低下や、化学物質の分解・排出機能の低下を招き、朝の頭痛を引き起こしていた。
カイロプラクティック・システムには土台理論がある。私たち人間の体にとって、土台となるのが骨盤であり、骨盤の乱れが脊柱全体に悪影響を及ぼし、バランスが乱れていくとされている。この症例は、その土台理論の重要性を再認識させられる症例だった。
執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二
東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。