
”頭が冴えるようになって仕事量が増えました”
日々のストレスや体の歪みが影響しているのか、自律神経の乱れを強く感じるようになった。特に上腕から中指・小指にかけての痺れが続き、握力の低下も実感している。手にしっかりと力が入らず、細かい作業が思うようにできないことが増えた。さらに、大腿四頭筋にも力が入りにくくなり、歩行時に足が思うように上がらない感覚があり、以前よりも疲れやすくなっている。
特に気になっているのが、マルチタスクがうまくこなせなくなっていることだ。以前は複数の業務を同時に進めたり、会話をしながら手元の作業をこなすことが普通にできていた。しかし最近では、一つのことに集中すると他のことがまったく手につかず、些細なことで混乱してしまうことが増えた。頭が思うように回らず、タスクの優先順位をつけることにも苦労するようになった。仕事では些細なミスが増え、段取りよく進めることが難しくなってきている。
また、首や肩、上背部、腰にも常に張りを感じ、仕事中や日常の動作で違和感を覚えることが増えた。デスクワークをしていても集中力が続かず、気づけばボーッとしてしまうことも多い。頭の中が常にモヤモヤしていて、スムーズに考えをまとめることができない感覚がある。この状態が続くことで精神的にも疲れやすくなり、焦りや苛立ちを感じることが増えてきた。
また、睡眠の質にも問題があり、しっかり眠れている実感がない。特に寝入りの際、自然に眠るというよりも、気絶するような感覚で意識が途切れるように眠りに落ちてしまう。深く休めていないようで、朝になってもスッキリしない状態が続いている。両腕の痺れや体全体の違和感もあり、根本的に身体を整えなければならないと考え、カイロプラクティックを試してみようと来院を決意した。
仙骨2番を中心としたスポンジ状の浮腫
右の胸鎖乳突筋が過緊張
右乳様突起周辺に浮腫感
目がうつろな感じで話し方も極端にゆっくり
頚椎側面像において、椎間板のレベルがD3と慢性化し始めていることが確認できる。そのため週に2回のケアを推奨したが、出張が多く合間を見て来院できるのが、週に1回程度とのことであったた。そのため初期集中期は週に1回のケアで進めていくこととした。
8週目(5回目のアジャストメント)では、期間が途中出張で開いたこともあるが、これまでできなかった朝の仕事が徐々にできるようになったことを実感できたそう。また、全体の体の調子がいい気がするとおっしゃっていた。右の乳様突起の浮腫や胸鎖乳突筋の緊張は減少傾向にある
25週目(14回目のアジャストメント)では、一番これまでできていなかったマルチタスクがいつの間にかできている感覚があるとのことであった。また、上腕や中指、示指に感じていたしびれや筋力低下も自然と緩和されているとのことであった。仙骨の浮腫感はまだ目立つが、第一頚椎周辺の兆候はほとんど気にならなくなる
33週目(15回目のアジャストメント)では、体調に大きな変化はなく仕事もできているが出張が多く、日本を横断するほどの移動の多さによって過労で倒れてしまったそう。ただ、そこからしっかり休息を取ることで、仕事に支障をきたさぬようになり、睡眠の質も良く回復が早まったとおっしゃっていた。
現在は仕事の量を見直しつつ、間を縫って月に1回程度メンテナンスでケアを進めている。
この患者様は、仕事や生活のストレスが原因で体の調子を崩し、特に複数のことを同時に処理する能力(マルチタスク)が全くできなくなってしまったケースです。
この方は腕から中指・小指にかけてのしびれと握力の低下、太ももの筋力低下により歩く時に足が上がりにくい症状、そして首、肩、腰の張りと痛みに加えて、仕事で複数のことを同時に考えたり処理したりすることが全くできない状態でお悩みでした。
検査の結果、首の骨(頚椎)の椎間板の変性が慢性化しており、長期間にわたって神経が圧迫されていることが分かりました。お仕事で出張が多いため、週1回のペースで治療を開始し、33週間で計15回の施術を行いました。主に首の一番上の骨(第一頚椎)と骨盤の一番下の骨(仙骨)を中心に調整を行いました。
私たちの体には自律神経という、意識しなくても自動的に体の機能をコントロールしている神経系があります。この自律神経には交感神経(活動モード・緊張モード)と副交感神経(休息モード・リラックスモード)の2つがあり、それぞれアクセルとブレーキの役割を果たしています。ストレスが続くと交感神経ばかりが働いて、常にアクセルを踏みっぱなしの状態になってしまいます。
脳の前頭葉という部分は考える、判断する、複数のことを同時に処理するといった高度な脳の働きを担当していますが、交感神経が働きすぎると、この前頭葉の機能が低下してしまいます。これが、マルチタスクができなくなった主な原因と考えられます。ストレスが長期間続くと、コルチゾールというストレスホルモンが過剰に分泌され、脳の神経細胞を傷つけてしまうことも分かっています。
カイロプラクティックにより神経の圧迫を取り除くことで、副交感神経(リラックスモード)を活性化させることができます。特に今回アジャストメントした首の一番上の骨(第一頚椎)は脳への血流を改善し、リラックスを司る迷走神経の働きを良くする効果があります。また骨盤の骨(仙骨)は下半身の副交感神経をコントロールし、全身のバランスを整える重要な部位です。これらの調整により脳への血流が良くなり、神経の伝達がスムーズになり、炎症が抑えられ、睡眠の質が向上し、結果として脳の考える力が回復することが期待できます。
治療の経過を見ると、8週目(5回目の施術後)では朝の仕事が徐々にできるようになり、全体的に体調が良くなったと実感されました。25週目(14回目の施術後)にはこれまでできなかったマルチタスクが自然とできるようになり、腕のしびれや筋力低下も改善されました。33週目(15回目の施術後)では過労で一時的に体調を崩すことがあっても、以前より回復が早くなり、現在は月1回のメンテナンスで良好な状態を維持されています。
この症例は、長期間のストレスによって脳の考える力が低下してしまった状態を、神経のバランスを整えることで改善できることを示した事例です。ストレスで常に緊張状態にあった体を、カイロプラクティックの施術によってリラックスモードに切り替えることで、脳本来の機能を回復させることができました。現代社会ではストレスによる様々な不調が増えていますが、体の構造を整えることで根本的な改善が期待できる可能性があることを示した貴重な症例と考えられます。
執筆者塩川カイロプラクティック治療室関野 貴友
1999年、大阪府生まれ。19才より東海大学トレーナー専攻及び東京衛生専門学校のダブルスクールを行い、共に優等で卒業。鍼灸あん摩マッサージ指圧師を取得。のちに睡眠専門治療室NEOCHIを開業。2023年よりシオカワスクールのインストラクターを務め後進の育成にも力を入れている。