

来院の約1週間前から腰の痛みが急激に強くなり、特に前屈動作で電気が走るような痛みが出現するようになった。特に、椅子に座って靴下を履こうとするだけでも強い痛みが走り、日常生活に大きな支障をきたしていた。
その約1カ月前にはストレッチ中に右膝を負傷しており、もともと右膝には慢性的な違和感があったため、趣味の登山やサップの後にも痛みを感じることがあった。膝を痛めて以降は無意識に右膝をかばう生活が続いていた。
もともと腰痛は30代の頃から慢性的にあり、介護職に従事していた経験から前屈や持ち上げ動作を繰り返す中でぎっくり腰も定期的に発症していた既往がある。
今回の腰痛発症後は、朝布団から起き上がる際に右脚が固まったように感じる状態となり、歩行を続けると鼠径部に痛みが出現するようになった。そのため歩くことへの不安が強まり、移動手段も自転車中心へと変化していった。また、これまで週3回行っていたサップも中止せざるを得なくなり、活動量は大きく低下していた。
さらに、新天地での仕事開始を控えていたこともあり、このままの状態で仕事ができるのかという不安も強くなっていた。そうした中で塩川満章D.C.のYouTubeを視聴し、自宅から通院可能な当院を知り来院に至る。
右仙腸関節の明らかな可動域制限
腰部全体の過緊張、熱感
左後頭部の強い浮腫
初診時の状態では、右仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、仙骨部と上部頚椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また仙骨部と左後頭部に強い浮腫が確認された。
レントゲン評価では、椎間板をD1~D6という6段階で評価していく。腰の椎間板の段階は慢性的なD6レベルが確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD6レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっていた。
初期集中期の段階では週3回のケアを提示したが、仕事の関係で週2回のケアから開始した。
2週目(4回目のアジャストメント)には、腰の痛みは自覚的に軽減し、日常動作の負担もやや軽くなってきた。ただし前屈動作ではまだ痛みが残存しており、動作には慎重さが必要な状態であった。検査上では、初診時にみられた腰部の熱感が減少し、脊柱起立筋の過緊張にも改善がみられた。
4週目(7回目のアジャストメント)には、朝起床時に感じていた右脚の固まりが軽減し始め、歩行時に出現していた鼠径部の痛みも出現までの時間が延びるなど、機能面での回復がみられた。歩くことへの不安も徐々に軽減し、日常の活動量がわずかに増加していった。
5週目(8回目のアジャストメント)には、靴下を履く際に生じていた鋭い痛みは大きく軽減した。この時期には試験的に登山を再開したが、腰痛の再発はみられなかった。また、触診上でも仙骨部の浮腫は明らかに減少していた。
6週目(10回目のアジャストメント)には、歩行に対する不安はほぼ消失し、施術後には1時間程度の散歩が可能な状態となった。朝の右脚の固まりも消失し、起床時の動作はスムーズに行えるようになっていた。
8週目には、日常生活における腰痛はほぼ消失し、長時間の歩行や階段昇降においても問題は認められなくなった。また、身体機能の回復に伴い、仕事や将来に対する不安感も軽減し、睡眠の質の向上も自覚されるようになった。
現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。
本症例の腰痛は、構造的変化そのものが主な原因ではなく、骨盤部における神経機能の乱れを背景として生じたものと考えられる。腰部の椎間板には慢性的なD6レベルの変性が認められたが、これらは長年の経過で形成された状態であり、単独で痛みを引き起こしていたとは考えにくい。
重要なのは、この慢性的な椎間板の状態に対してどのような負担が加わっていたかである。本症例では、その根本原因として骨盤のバランスの乱れが存在していたと考えられる。
発症の経過をみると、もともと骨盤の左右のバランスの乱れにより下肢への荷重バランスが崩れており、その影響を受けて右膝に慢性的なストレスが加わっていた可能性が高い。膝関節は骨盤や股関節の影響を強く受けるため、骨盤のバランスが乱れることで代償的な負荷が集中し、今回の右膝の負傷につながったと推察される。
さらに、膝の痛みによってかばう動作が加わったことで骨盤および股関節のバランスは一層負担がかかり、結果として右仙腸関節への負担が増大した。このような状態が持続することで骨盤部の固有受容器からの異常な神経入力が増加し、脳はそれを防御的に処理するようになる。その結果、腰部周囲の筋緊張が高まり、可動域制限や血流低下を伴いながら、慢性的な椎間板(D6レベル)に対してさらに負荷が蓄積していったと考えられる。
つまり本症例では、椎間板の変性が原因なのではなく、骨盤のバランスの乱れによって椎間板に過剰な負担がかかり続けたことが痛みの根本原因であったといえる。
アジャストメントの継続によりサブラクセーションが改善されると、骨盤部からの神経入力は正常化し、過剰な防御反応は徐々に軽減していった。それに伴い筋緊張が緩和し、血流や組織の代謝環境が改善したことで、痛みの軽減および動作の回復が段階的にみられた。
また、登山やサップといった活動を再開しても症状の再発がみられなかったことから、疼痛の軽減にとどまらず、骨盤を中心とした運動連鎖の機能改善が得られたと考えられる。
本症例は、慢性的な椎間板変性が存在していても、それ自体が痛みの原因ではなく骨盤のバランスや神経機能といった全体の問題が関与していることを示している。そして、根本原因に介入することで身体は本来の回復力を発揮し、年齢に関わらず機能改善が可能であることを示唆する症例である。


執筆者前田カイロプラクティック藤沢院中島 恵
新潟県東蒲原郡出身。柔道整復師の免許を取得後、整骨院に勤務。様々な講習会に参加している中で本来のカイロプラクティックの考え方に興味を持つようになり塩川スクールを受講する。カイロプラクティックで地域や社会に貢献したいという思いが強くなり、日本のカイロプラクティックの発展に尽力してまいります。