

患者は右臀部から大腿後面にかけての痛みを主訴として当院にご来院された。20歳頃より軽度の腰痛があったが、半年前から症状が悪化し始め、特に昨年12月の実家での大雪の雪かき作業をきっかけに痛みが強くなったと考えている。
以前は腰部の痛みが主体であったが、近年はお尻から太もも裏にかけての痛みへと範囲が広がっている。運転中や長時間の座位で症状が増悪し、1時間ほど座っているとお尻からもも裏に「つったような痛み」が出現する。立ち上がり動作や待ち時間中の座位でも痛みが出ることがあり、症状が慢性化していた。
痛みの場所は、右臀部から右腿裏にかけてが特に強いと訴えているが、左鼠蹊部の痛みや左腿裏にも痛みが出ることはあるとのこと。
夜間の睡眠中に痛みで覚醒することはなく、睡眠自体は比較的良好であるものの、横向きや肘をついてテレビを見る姿勢では腰部の痛みを感じる。夜間は3~4時頃にトイレに起きることが2日に1回くらいある。
歩行や車から降りて伸びを行うと痛みが軽減する傾向があり、動作の初動や姿勢保持時に痛みが強く出る特徴を示している。縁側でスマホを30分ほど見ながら喫煙することが日課なのだが、伸びをしてからでないと立ち上がれない。近頃は痛みのため散歩を控えるようになっている。
既往としては心室頻拍による手術歴があり、現在も薬物治療を継続中である。そのほか、冷え性や肋間神経痛の症状を訴えており、特に下肢の冷えを強く自覚している。風呂上がりでも足先が冷たく、お腹の冷えを防ぐために腹巻きやレッグウォーマーを常用している。32年前と25年前には排尿性失神によって転倒し、むち打ちを経験している。
当院を選択された理由は、病院でMRIおよびレントゲン検査を受け、脊柱管狭窄症は否定され、坐骨神経痛の可能性を指摘されたが、画像上大きな異常はなく、痛み止めのみであった。知人が同様の症状で整形外科を受診した際に脊柱管狭窄症と診断されたことをきっかけに今回自身も病院を受診したわけだが、痛み止めのみで終わってしまったことが納得できず、「根本的に改善したい」との思いでカイロプラクティック・ケアを希望して来院された。
患者は現在、月に1度、義実家での外作業のために車で4時間ほど運転する機会があり、その道中の痛みを何とかしたいと強く願っている。痛みが軽減すれば、日常生活の活動量を取り戻し、趣味である散歩やゴルフを再開したいと考えている。退職後の体重増加も気になっており、運動を増やしたい意欲があるものの、痛みのため実行に至っていない。
過去には草野球やバレーボールを積極的に行っていたが、3年前の心室頻拍発症以降は運動を控えている。現在はゴルフを楽しんでおり、スイング時に強い痛みはないが、腰部に違和感を感じることがある。
左上後腸骨棘下端内縁に窪んだ浮腫
仙骨中央部にスポンジ状の大きな浮腫
頚椎1番の右側屈制限
初診では、胸部から仙腸関節にかけての起立筋の過緊張が強く、左下肢が長く臀部形状はなだらかであることが認められた。また、右耳介、右肩は上方変位しており、頚椎1番の右側屈制限も確認された。
腰椎5番の可動制限、頚椎7番の浮腫や可動制限もあったが、末端冷え性が強いこと、睡眠時間は取れているが中途覚醒は日常的に起きていること、仙腸関節まで続く緊張や浮腫という所見から副交感神経領域に絞ってアジャストメントを開始した。
レントゲン画像から腰部の椎間板の段階がD4、頚部がD6であることが確認された。カイロプラクティックにおいて、レントゲンの評価は椎間板の状態をD1〜D6の6段階に分けて行っていく。
腰部の椎間板の段階はD4と慢性度合いがやや強く、腰部の神経には5年〜10年間負担がかかっていたことが考えられた。頸部の段階はD6と慢性度合いが非常に強く、15年以上の負担が推察される。
このことをご説明して、週2回のペースでスタートしていくことになった。
9週目(11回目のアジャストメント)では、左腿裏や鼠蹊部にも出ていた痛みがなくなり、右腿裏の痛みだけが残存する程度になった。縁側でぼーっとする時間も短めにしたところ腰が痛くなることはなく、奥様と散歩に出かけるようにもなった。週2回から週1回のペースに期間をあけた。
14週目(16回目のアジャストメント)では、右臀部から腿裏にかけての痛みは長時間の運転をしない限りは出なくなった。ゴルフも毎週行けるようになり、奥様と庭の手入れも楽しまれている。アジャストメント部位をS2とC7に変更し、アジャストメント期間も10日に1回のペースにあけた。
27週目(24回目のアジャストメント)では、何十年も左足が開いていたのに今は真っ直ぐ立てていることに最近気づいたとのことで驚かれていた。ゴルフは週1-2回のペースで、散歩も30分から1時間ほど毎日のようにやれているとのこと。
現在は、臀部から腿裏の痛みは落ち着き、散歩も継続している。月に1度の義父のお家までの運転も休憩しながらではあるが、痛みが出ることなく行くことが可能な状態を継続するため、カイロプラクティック・ケアを2週に1度のペースで受けている。
本症例は、臀部から大腿後面にかけての痛みを主訴とし、MRI・レントゲン上に明らかな構造的異常が認められなかったにもかかわらず、日常生活に大きな支障をきたしていたケースである。
レントゲン評価においては、腰椎および頸椎の椎間板の段階が腰部ではD4、頸部ではD6であり、腰部では少なくとも5年以上、頸部では15年以上にわたる慢性的な神経負担が存在していたことが推測された。
また、既往歴として30年前のむち打ちや長期の腰痛があり、神経系へのストレスが積み重なっていたこととも一致する。
骨盤部の左仙腸関節の可動域制限がみられた。骨盤には左右の腸骨と真ん中の仙骨をつなぐ関節である仙腸関節が左右に存在する。片側の仙腸関節に可動域制限があると、反対側の仙腸関節は過剰な可動性を示す。
さらに、骨盤は副交感神経の支配領域であり、この領域にサブラクセーションが生じると、自律神経バランスが崩れ、身体は交感神経優位の状態になる。末端の血管は収縮して血流は滞りやすくなり、筋緊張にも影響を及ぼす。結果として、痛みの慢性化や回復の遅れを生じやすい。
実際に本症例でも、末端の冷えや下肢の緊張が強くみられたが、骨盤部および上部頸椎(C1)のアジャストメントを継続した結果、9週目には左側の痛みが軽減し、14週目には長距離運転以外の疼痛も軽減した。
その後は仙骨および下部頸椎(C7)にアジャストメント部位を変更した。頚椎7番は交感神経領域であるが、仙腸関節および頸椎1番の安定性が維持できている状態を観察しながら、自律神経系を絞らない筋骨格系の調整を行うことで、27週目には姿勢バランスが明らかに整い、「何十年も左足が開いていたのに、今は真っ直ぐ立てている」と本人が実感するまでに改善がみられた。
これらの経過から、臀部~大腿後面の痛みは局所的な筋・神経の問題ではなく、骨盤部および仙骨のサブラクセーション(根本げんいn)によって引き起こされた神経伝達の乱れが本質的な原因であったと考えられる。
頸椎7番は甲状腺につながる神経の領域である。甲状腺は全身の代謝や他の臓器にも影響を与える臓器であることから、代謝の向上や毒素の排出を促し、今後は退職後の体重増加や冷え性の改善にも期待したい。
「痛みがなくなった」だけでなく、「まだ良くなれる」と患者自身が感じ、散歩やゴルフに再び挑戦できるようになったことこそ、本症例の最大の成果である。
カイロプラクティック・ケアを通して、身体だけでなく“治る力を信じる心”が回復した、人間が本来持つ自然治癒力は十分に発揮されることを示した非常に意義深い症例であった。


執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二
東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。