
主訴は首から肩にかけての張り感と、それに伴う頭痛であり、これらの症状は19年前、中学生の頃から日常的に続いていた。
頭痛自体は小学生の頃から始まっており、頻度は高く、特に起床時(夕方)に出現しやすくなる。また、気圧の変化や悪天候の影響も受けやすく、天気が悪くなると頭痛が必ず出るので痛み止めの薬は欠かせない。
中学生の頃からは、精神的な問題も顕著となり、本人の自覚としても「集団生活が苦手」「人と関わるのが好きではない」といった内向的傾向が強まり、メンタルクリニックへの通院が始まった。
保育園の頃から集団行動に馴染めず、学校生活においても一貫して強い違和感を抱えていた。中学ではサッカー部に一時所属するも、やはり集団行動に馴染めずすぐに退部している。
その後も人付き合いに困難を感じながらも社会生活を送っていたが、25歳の頃に職場での人間関係のトラブルを契機にうつ病が悪化。現在に至るまで、精神的な波のある日々を過ごしている。
身体的な症状としては、首や肩の筋緊張に加えて、頭痛、倦怠感、不眠、手足や脇の多汗、めまいなどさまざまな症状に悩まされている。特に起床時の頭痛が強く、疲労感やだるさで動けないことがある。
現在は眠剤の服用によって入眠自体は可能となっているが、中途覚醒が多く、10時間寝たいところが7時間程度で目が覚めてしまうため、本人の感覚としては「常に寝足りない」「スッキリ感が得られない」と感じている。
入眠時間は大体日が上り始める5時-6時くらいで、起きるのは夕方16時くらいである。そこから活動が始まり、夜は眠気が来ないので、映画鑑賞やゲームをして過ごしている。
服用中の薬剤も多く、向精神薬、睡眠導入剤、アレルギー薬、胃薬2種類、かゆみ止め、さらに疼痛時にはロキソニンとボルタレンといった鎮痛薬も使用している。
栄養面や体重管理の面でも課題がある。5年前までは痩せ型で62kgほどであったが、体を使う仕事を辞めたことと、薬の副作用も相まって体重が急増。現在は、20kgの体重増加となり、中性脂肪値の高さを指摘されている。
現在は、糖質制限を中心としたダイエットに取り組んでおり、食生活の改善にも努力を重ねている。また、顎関節の異音と開けづらさも気になる症状であり、痛みはないもののみてほしいという希望がある。
生活の質(QOL)は全般的に低下しており、だるさによって現在はゴミ出しや料理、入浴といった基本的な日常生活すら自力ではこなすことが難しく、奥様による介助を受けながら生活をしている状況である。
奥様やお子さんが当院に来院されており、症状に改善がみられたことで、自分も良くなるかもしれないという思いで、カイロプラクティック・ケアを受ける決意をされた。
左上後腸骨棘上部に窪んだ浮腫
右乳様突起下にスポンジ状の浮腫
隆椎付近のスポンジ状の浮腫
初回では、中部胸椎から仙骨部まで広範囲にわたる筋緊張と全体的な肌のべたっとした質感、頚部から肩井、首の付け根あたりまでの筋緊張が強いことから週2回のケア計画を提案したが、金銭的な事情により週1回からスタートした。
11週目(11回目のアジャストメント)では、頭痛が明らかに減っていると自覚し、肩こりや肩のだるさも気にならずボルタレンやロキソニンといった痛み止めに頼らずとも過ごせるようになった。
27週目(18回目のアジャストメント)では、お風呂に介助なしで入れる日が増えてきた。頭痛もまったく起きておらず、めまいの頻度も2度しか起きていない。
36週目(26回目のアジャストメント)では、どしゃ降りの悪天候の日であったが、右側頭部に頭痛が出たが、カイロプラクティックを受けていなかった頃に比べて、耐えられる範囲に落ち着いている。
現在は、頭痛は大幅に解消し、首から肩の重みを感じてはいないが、週1でカイロプラクティック・ケアを続けている。
本症例は、20年以上にわたり頭痛・首肩の張り・めまい・倦怠感・不眠などの複合的な症状を抱えてきた、長期慢性経過のケースである。薬物治療や不規則な生活習慣、そして神経系に対する継続的なストレスが、サブラクセーションの形成と自然治癒力の低下に深く関与していると考えられる。
中学生時代から続く頭痛や肩こりに加え、精神的負荷に起因するうつ症状、長期にわたる 向精神薬・睡眠導入剤・アレルギー薬・胃薬・鎮痛薬などの多剤併用は、代謝・自律神経系・排毒機能に持続的な負荷を与えたと推察される。特に、化学物質(毒素)の体内蓄積は神経細胞に微細な炎症反応を引き起こし、神経伝達の滞りや恒常性の低下をもたらすことで、サブラクセーションの形成を助長し、自然治癒力の抑制につながったと考えられる。
注目すべきは、生活リズムの乱れによって交感神経と副交感神経の働く時間帯が逆転していた点である。睡眠が朝から午後にかけて行われていたため、本来、副交感神経が優位となるべき夜間に活動が続き、交感神経の機能亢進によって慢性的に過緊張状態に置かれていたと考える。また、患者本人が10時間の睡眠を必要とし、7時間では疲労が抜けないと感じる点からも、自律神経のバランスが大きく乱れ、自然治癒力が著しく低下していたことがうかがえる。
起床時の頭痛やアトピー性皮膚炎といった症状は、体内の溜まった有害な化学物質(毒素)と関連があると考えられている。これは、睡眠中は代謝が低下するため、起きている間よりも毒素が体内に溜まりやすくなるからだ。その結果、起床時に体内の毒素が蓄積していることを知らせるために「頭痛」となって症状が現れているのだろう。
分解や排出をする臓器の機能が低下していることで、排毒が十分に行えなくなると、体内の毒素は皮膚を通じて汗として排出され、それが皮膚に過剰な刺激となり、アトピーを発症したと推察される。
これは、体内に蓄積された化学物質(毒素)が交感神経領域のサブラクセーション形成に関与し、結果として排毒機能が抑制されていたことの表れとも言える。
次に首肩の張りや背部の筋緊張は、交感神経過剰に起因する可能性が高い。交感神経が優位な状態では筋肉が常に緊張し、慢性的な過緊張に陥る。これに対して副交感神経領域に焦点を当てたアジャストメントを継続することで、副交感神経の働きが回復し、交感神経過剰な状態が落ち着き、筋緊張の改善へとつながったと考えられる。
サブラクセーション(根本原因)の3大要因として、身体的ストレス・精神的ストレス・ 化学物質の蓄積が挙げられる。
10代からの長期的な薬物使用による化学物質の体内蓄積、集団生活に対する強い拒否感、昼夜逆転した生活リズムといった要因が複雑に絡み合い、神経系への負担を増幅させていたと推察される。
これらのサブラクセーション(根本原因)になりえる要因との向き合い方を変えることが、自然治癒力のさらなる向上に繋がる大切な一歩となる。ただし、神経の回復は、負担がかかった期間や度合いに比例して期間を要する。それは、すべての過程には時間が必要になるからである。
本症例は、レントゲン評価から最低でも10年以上は、負担がかかっている。症状も20年以上続くことから、神経の回復はまだまだ始まったばかりであり、長い時間をかけて治癒していくことも考えていく必要がある。
以上より、長期にわたる薬物的・心理的・生活習慣的ストレスの蓄積がサブラクセーションの背景にあり、それに対して交感神経系・副交感神経系を絞ったアジャストメントを行うことで神経機能の回復が見られ、体内の毒素が排出されるようになった結果、症状が大きく軽減したと考えられる。神経の流れを整えて、体の情報を脳へ届けることの重要性が確認できる症例であった。
執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二
東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。