

気づけば、体調の波に振り回されなくなっていました!
もともと大きな持病もなく過ごしていたが、数年前から少しずつ体調の違和感が増えていった。最初に気になり始めたのは胃腸の調子であり、引っ越しを機に生活環境が大きく変わった頃から、食後に胃が重く感じたり、便秘と下痢を繰り返したりと、以前にはなかった不調を感じるようになった。
その後、生活リズムの変化や家庭内の状況が重なった時期から、睡眠の質が大きく低下していった。寝つけない日が続くこともあれば、ようやく眠れても夜中に何度も目が覚めてしまい、熟睡できない状態が何か月も続いた。特に症状が強かった時期には、ほとんど眠れない状態が続き、日中も強い疲労感や不安感を抱えながら生活していた。
睡眠の乱れと前後して、頭痛や顎の痛みといった症状も現れるようになった。頭痛は時間帯に関係なく出現し、特に低気圧の前後には頭の右側がズキズキと痛むことが多かった。顎については、数年前に強い精神的ストレスを感じていた時期に、突然強い痛みと違和感が出現し、耳の奥まで響くような痛みを感じるようになった。症状が強い時には、救急受診を考えるほどの不安を覚えたこともあった。
これらの症状に対して、脳神経外科でMRI検査を受けたり、耳鼻科で副鼻腔の検査を受けたりと、複数の医療機関で精密検査を受けてきたが、いずれも明確な器質的異常は見つからなかった。その後、内科や心療内科を受診した際に「自律神経失調症」と診断され、生活指導や薬物療法を受けることになったが、症状の改善を実感できるまでには至らなかった。
検査では異常がない一方で、不調だけが続く状況に対し、「原因がはっきりしないまま、この状態と付き合っていくしかないのではないか」という不安が次第に強くなっていった。その後も、自律神経を整えることを目的とした整体やオステオパシーなど、さまざまな施術を試してきたが、症状に大きな変化はみられなかった。施術直後は一時的に楽になることはあっても、数日経つと元の状態に戻ってしまい、「何をやっても変わらない」という思いが積み重なっていった。
不調は徐々に全身へと広がり、右半身の張りや痛み、膝の違和感、生理周期の乱れやPMSの悪化、高血圧といった症状も加わるようになった。体調が不安定な時期には、気分の落ち込みや不安感が強くなり、「この先も同じ状態が続くのではないか」という恐怖を感じることもあった。
そうした中で、家族が偶然見つけたカイロプラクティックに関する情報をきっかけに、「検査で異常が出ない不調には、神経機能の視点から身体全体を見直す必要があるのかもしれない」と考えるようになった。これまで一つ一つの症状に対して対処を続けてきたが、自律神経失調症と診断された背景も含めて、身体の状態を総合的に評価してもらいたいという思いが強くなり、カイロプラクティックは初めてであったものの、当院に来院された。
右仙腸関節の可動域制限
右仙骨翼にスポンジ状の浮腫
第一頸椎右横突起にスポンジ状の浮腫
初診時の状態では、右仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、骨盤部と上部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また右仙骨翼と第一頸椎右横突起に強い浮腫が確認され、腰部起立筋と頸部胸鎖乳突筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、椎間板をD1~D6という6段階で評価していく。腰の椎間板の段階は慢性的なD4レベルで重度の骨盤の傾きが確認された。首の椎間板の段階は6段階中3段階の慢性的なD3レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっていた。頸部だけではなく、背骨の生理的な弯曲は全体的に減少傾向であった。
初期集中期の段階では週2回のケアを提示したが、子育ての関係で時間の確保が難しかったため、無理のない範囲で週1回のケアから開始した。
6週目(4回目のアジャストメント)には、これまで常に感じていた右半身の張り感が、わずかに軽減していることを本人が自覚していた。特に朝起きた直後の身体の重さが以前よりも和らぎ、起き上がる際の負担感が軽減しているとの訴えがあった。不眠に関しては大きな変化はまだみられなかったが、夜中に目が覚めた際の動悸や不安感は以前よりも落ち着いてきている様子がみられた。
11週目(9回目のアジャストメント)には、頭の重さや眼精疲労の出方に変化がみられた。これまで日中を通して続いていた目の奥の疲れや締めつけ感が、夕方以降まで持ち越さない日が増えていた。顎周囲の違和感についても、常に意識する状態ではなくなり、強い痛みや耳に響くような不快感は出現していなかった。睡眠については、寝入りにかかる時間が短くなり、情緒が大きく乱れる日が減少していた。
15週目(15回目のアジャストメント)には、全身症状の安定感が徐々に出てきていた。右半身の突っ張るような感覚は明らかに軽減し、膝の違和感や脚の痛みを強く意識する場面も少なくなっていた。生理前に強く出ていた気分の落ち込みや身体のだるさも、以前ほど顕著ではなくなり、症状の波が小さくなってきているとの報告があった。
22週目(20回目のアジャストメント)には、顎関節症、頭痛、不眠といった主な不調は日常生活に大きな支障をきたさない程度まで落ち着いていた。夜間に目が覚めてしまう回数も減少し、睡眠の質そのものが改善している感覚が得られていた。全身の緊張感も以前と比べて明らかに軽減しており、体調の大きな乱れが起こりにくい状態が維持されていた。
現在は、全身にみられていた多岐にわたる症状は大きく落ち着き、日常生活を送るうえで支障のない状態が保たれている。今後も自律神経機能の安定を維持し、体調の大きな乱れを防ぐため、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを継続している。
今回の自律神経失調症による諸症状は、特定の臓器や単一の局所に原因を求めるものではなく、自律神経機能そのものが長期間にわたり不安定な状態に置かれていたことが主な要因であったと考えられる。
本症例では、顎関節症、頭痛、不眠症、生理不順、PMS、消化器症状、アレルギー症状、全身の緊張感など、多岐にわたる不調が同時期あるいは連鎖的に出現していた。これらの症状はいずれも、自律神経による調整機能の影響を強く受ける領域であり、単一の器官や構造的異常のみで説明することは困難である。
初診時の評価では、骨盤部および上部頸椎の双方に明らかな神経学的異常所見が確認されていた。体表温度検査や触診所見からも、これらの部位において神経機能の低下が長期間持続していたことが示唆された。骨盤部および上部頸椎はいずれも副交感神経機能と深く関与する領域であり、これらの働きが低下することで、身体は慢性的に交感神経優位の状態に傾きやすくなる。
交感神経が過剰に優位な状態が続くと、睡眠の質の低下、情緒の不安定さ、頭痛、顎関節周囲の筋緊張、消化管の蠕動異常、ホルモン分泌の調整不全といった症状が連鎖的に現れやすくなる。本症例において、検査上は明確な器質的異常が認められなかったにもかかわらず、多様な症状が全身性に出現していた点は、この自律神経機能のアンバランスを反映したものといえる。
また、自律神経機能が不安定な状態では、身体は外部環境や精神的負荷に対して過敏に反応しやすくなり、症状の波が大きくなりやすい。このため、症状が一定せず、良い時と悪い時を繰り返しながら長期化する傾向がみられる。本症例においても、症状が固定化せず、全身に広がる形で変動していたことは、この神経調整機能の低下を示唆している。
アジャストメントによって骨盤部および上部頸椎にかかっていた神経への負担が段階的に軽減されることで、副交感神経が働きやすい環境が整い、過剰に高まっていた交感神経の活動が徐々に抑制された。その結果、睡眠の質、頭部や顎周囲の緊張、内臓機能、情緒面といった全身の機能が時間をかけて安定していったと考えられる。
症状の変化が急激ではなく、段階的に軽減していった経過は、神経機能の回復には一定の時間と順序が必要であることを示している。これは神経調整機能が本来の働きを取り戻していく生理的なプロセスを反映したものであり、自律神経症状の特徴とも一致する。
本症例は、自律神経失調症による諸症状の背景に、骨盤部および上部頸椎に存在していたサブラクセーション(根本原因)による神経機能の低下が関与していたことを示す臨床例である。神経機能に着目した評価とアプローチによって、局所症状にとらわれない全身的な安定が得られた点は、自律神経症状を理解するうえで重要な示唆を与える症例といえる。


執筆者前田カイロプラクティック藤沢院前田 一真
1982年、神奈川県生まれ。シオカワスクール在学中から塩川カイロプラクティックにて内弟子として学ぶ。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。2023年に前田カイロプラクティック藤沢院を開院。一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくため、カイロプラクターとして尽力している。またシオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。