
”不安だった外出が楽しくなりました”
2012年、腰に激しい痛みを感じて病院を受診された患者さん。診断は椎間板ヘルニアで、半年間にわたってブロック注射を継続しながらの保存療法が行われました。治療によってある程度の動作は可能になったものの、完全に痛みが消えることはなく、ご本人は「だましだまし生活していた」と話されていました。
その後数年間は、日常生活に大きな支障はなかったとのことでしたが、2022年春ごろから体に再び異変が現れます。体が重だるく、何となく動きづらい。歩行もつらく感じるようになり、ふと鏡を見ると立ち方や歩き方に左右差が出ているように感じ、不安が募っていったそうです。
当初は「時間が経てば治るだろう」と自然回復を期待されていましたが、痛みは日を追うごとに強くなり、次第に歩くことも困難に。足腰に響く痛み、真っすぐ立っているだけでもつらい状態にまで進行し、日常生活にも大きな支障が出始めていました。
そこで、まずは近所の接骨院を受診。担当の先生からは「姿勢と歩き方を根本から変える必要がある」と指摘され、パーソナルトレーニングを提案されたそうです。毎週通い、1年ほど姿勢改善と歩行訓練に取り組まれましたが、思ったような変化は得られず、痛みや違和感は残ったままでした。
その後、整形外科を受診したところ、「手術以外に方法はない」と宣告されました。手術に対する強い抵抗感を抱えていた患者さんは、「できることならメスを入れずに治したい」という強い気持ちを持たれていたそうです。
そんな折、たまたまポストに入っていた当院のチラシを見て、「少しでも何か変わるなら」と来院を決意されました。初回カウンセリング時、過去の経緯や不安を丁寧に伺いながら、構造的な問題だけでなく神経系の機能的な側面からアプローチする方針をご説明したところ、「初めて自分の体の状態をちゃんと説明してもらえた気がする」と安心された様子でした。
左仙腸関節の可動域制限
腰の筋肉の過度の緊張
腰部から仙骨全体の浮腫感
検査の結果、腰の椎間板は全体的にかなりのダメージがあり、D6〜D4レベルと慢性的な状態でした。また、首の椎間板もD4〜D5レベルと負担が大きく、長年にわたる体の使い方のクセや疲労の蓄積がうかがえました。そのため、本来は週3回の施術が望ましい状態でしたが、お仕事の都合もあり、まずは週2回のペースでケアを始めることになりました。
2週目(4回目の施術)を終える頃には、腰から仙骨(骨盤の中央の骨)にかけてのむくみが少し減ってきており、体の中で変化が起き始めていることが確認できました。
4週目(8回目)には、腰と首の緊張がやわらいできて、それとともに足のしびれも少しずつ軽くなってきたようで、ご本人からも「なんとなく楽になってきた感じがある」とお話しいただきました。
10週目(19回目)では、腰や仙骨まわりの腫れぼったさも範囲が狭くなってきて、腰の痛みは明らかに軽減、足のしびれの広がりも小さくなってきているのがわかりました。
13週目(24回目)になると、「痛みも、しびれも、最初の頃の半分くらいになってきました」とご本人もはっきりと実感されるようになりました。まだ完全ではないものの、確かな回復の手応えがありました。
そして16週目(30回目)の施術後には、「これまで痛みが不安で避けていたけど、ようやく友人や娘と外出する気持ちになれました」と嬉しい報告をいただきました。笑顔で「やっと普通の生活に戻れてきた気がします」と話されていたのがとても印象的でした。
その後も、過去に病気をされたご経験や現在の体調面の配慮もあり、「良い状態をキープしていきたい」とのご本人の希望で、定期的なカイロプラクティックケアを継続して行っています。
一般的な腰痛の治療では、痛みや炎症を抑えるための薬(鎮痛薬)や、筋肉のこわばりをやわらげて血流を良くする薬(筋弛緩薬)、さらに神経の働きを助けるビタミン剤などが使われます。湿布や塗り薬もあわせて使われることが多いです。これらの治療は、つらい症状を一時的にやわらげる効果はありますが、「根本から治す」という点では限界があるのが実情です。
腰痛の原因としてよく挙げられるのは、「冷え」や「血流の悪さ」、「長時間同じ姿勢を続けること(デスクワークや家事など)」、「ストレス」、「運動不足」、「目の疲れ」や「ホルモンバランスの乱れ」、そして「不規則な生活習慣」などです。こうした外からの要因を見直すことは腰痛対策として有効ですが、実はそれだけでは説明がつかないこともあります。というのも、同じような生活をしていても、腰痛が出る人と出ない人がいるからです。
このことからも、腰痛の本当の原因を探るためには、外側の要因だけでなく「体の中」の状態――とくに神経の働きや体のバランスにも目を向ける必要があります。腰痛は、体が「今ちょっと無理をしているよ」「このままだと危ないかも」と知らせてくれる大事なサインだと考えるべきなのです。
たとえば長時間座っていると、腰がだるくなったり、張ってきたりすることがあります。これは、体が発しているごく自然な警告反応です。これを無視してしまうと、筋肉に余計な負担がかかり、慢性的な腰痛に進んでしまうことがあります。
カイロプラクティックでは、腰痛の本当の原因を「体の内側」にあるものとしてとらえ、神経系や体の働きを整えることを重視しています。
腰痛のある方の多くに共通するのが、腰や骨盤まわりの筋肉のこわばりです。これは、身体にかかるストレスや負担によって、交感神経(緊張時に働く神経)が活発になり、血流が悪くなることで起こります。血流が悪くなると、疲労物質がたまりやすくなり、筋肉が緊張し、「凝り」や「だるさ」「重さ」といった症状が出てきます。これもまた、体が「なんとかしてほしい」と発しているサインなのです。
最初のうちは、軽い運動やストレッチ、しっかり休むことで改善することも多いですが、長引く腰痛では、そうした対応ではなかなか効果が出ない場合もあります。むしろ、動いたことで悪化したり、安静にしていても良くならなかったりすることもあります。
そうした慢性の腰痛が続くと、今度は脳が「この状態をなんとかしなきゃ」と働きはじめ、副交感神経(リラックス時に働く神経)が優位になります。これにより、体は血流を増やし、炎症を起こす物質(プロスタグランジン)を出して、傷んだ部分の修復をはじめようとします。つまり、「痛み」や「炎症」も、実は体が自分を治そうとして起こしている自然な反応なのです。
腰や骨盤の筋肉がカチカチになるのも、身体が不安定な部分を守ろうとして“自然のコルセット”を作っている状態だと言えます。
このとき、特に大切になるのが「脳・神経・身体組織」の情報のやりとり(情報伝達のサイクル)です。この流れがうまくいっていないと、脳が身体の状態を正しく把握できず、適切な回復指令が出せなくなってしまいます。その結果、いつまでも腰痛が改善しないという悪循環に陥るのです。
逆に、この神経の流れがスムーズに働いていれば、脳は身体の問題を的確にキャッチし、自然治癒力がしっかり働くようになります。カイロプラクティックでは、この「神経の流れ」を整えることで、体本来の回復力を高めていくことを目的としています。
執筆者細井カイロプラクティック細井 康隆
埼玉県さいたま市出身。2011年にスポーツトレーナーとメディカルトレーナーの資格を取得後、2014年に国家資格の柔道整復師資格を取得。接骨院・整体院での臨床と経営経験から多くのセミナー講師を務め、その参加人数は延べ2,000人以上を数える。その後カイロプラクティックと出会い、日本カイロプラクティックのパイオニアである塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.が主宰である塩川スクールで学ぶ。2025年に卒業し、埼玉県さいたま市大宮区にて細井カイロプラクティックを開業。現在は本物の技術を提供するカイロプラクターとして、臨床で多くの患者様と真摯に向き合い施術を行う傍ら、塩川スクールでインストラクターとして後進の指導を行っている。