
“ビリヤードがまたできるようになって大会にも出場できました”
数年前から、腰から右のお尻、太もも、ふくらはぎにかけての痛みやしびれを感じるようになったという患者さんが来院されました。特に立っていたり歩いているときに症状が強くなり、当初は「少し無理をすると出る程度」だった痛みが、徐々に生活の中でも無視できないものになっていったと話されていました。
2018年に整形外科でMRI検査を受け、「腰部脊柱管狭窄症」と診断。ブロック注射や鎮痛薬などで症状を抑えながら、日常生活は何とか維持されていました。
しかし大きな転機となったのが、趣味であるビリヤードのプレイが困難になってきたことでした。週に数回、仲間と集まり中腰の姿勢で集中してプレイすることが長年の楽しみだったにもかかわらず、痛みのために途中で中断することが増え、ついには満足にプレイできなくなってしまいました。「自分の好きなことができない」というもどかしさが、次第に心身へのストレスとなっていったようです。
そしてその頃から、痛みやしびれは日常の動作にも影響を及ぼすようになり、買い物や外出、長時間の立ち仕事など、これまで問題なくこなせていたことが徐々に難しくなっていきました。「ビリヤードだけでなく、普通の生活すらままならなくなってきた」と強い不安を感じるようになり、2024年には整体にも通い始めたものの、大きな改善にはつながりませんでした。
このままでは今後の生活そのものに支障が出てしまうのではないか――そうした思いから、改めて情報を探し直し、インターネットで当院の存在を知り、来院に至りました。
腰の下部に浮腫感
腰部から背中にかけての筋肉のこわばり
検査の結果、腰の椎間板は全体的にかなりダメージを受けており、D5〜D6レベルと慢性的な状態でした。首の椎間板もD4〜D5の状態で、長年の負担が蓄積していたことがうかがえました。そのため、まずは週に3回の集中的なケアから始めることになりました。
1週目(3回目の施術)が終わった頃は、まだ見た目に大きな変化はありませんでしたが、ご本人からは「夜、寝るときの痛みが前よりも軽くなった」との声がありました。以前は楽な姿勢が見つからず寝つくまで時間がかかっていたそうですが、「最近は少しずつ楽な体勢で寝られるようになってきた」とお話しくださいました。
4週目(10回目)には、腰の張りやむくみが明らかに減ってきて、筋肉の緊張もやわらいできました。また、施術の前日には1,000歩ほど無理なく歩けたとのことで、少しずつ体が動くようになってきた実感が出てきた時期でもありました。
5週目(14回目)には、なんと5,000歩も歩けるようになり、痛みであきらめていたビリヤードも再び楽しめるようになったと、嬉しそうに報告してくださいました。
7週目(17回目)には、ご家族と那須へ旅行にも行かれ、「ほとんど腰のことを気にせずに過ごせた」と、これまでとは明らかに違う体の状態を感じていたようです。
12週目(27回目)には、「前より疲れにくくなりました」とおっしゃっていて、腰のむくみもかなり減少していました。ただし、腰椎の3番にはまだ動きの硬さ(fix)がわずかに残っていたため、今後も経過を見ながらのケアが必要です。
ご本人としては、ここまでの変化にとても満足されており、「もう一度、趣味や旅行を楽しめるようになっただけでも本当に嬉しい」と話してくださいました。それでも、「これから先も再発を防ぎたい」「神経の働きももっと良くしていきたい」との前向きな思いから、現在もメンテナンスを兼ねてケアを継続されています。
**腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)**は、年齢とともに背骨まわりの組織が変化していくことで起こる疾患です。加齢に加え、長年にわたる姿勢のクセや運動不足、体への負担、生活習慣などが重なって、腰の神経が通る「脊柱管」という通り道が狭くなってしまうことが原因です。
とくに、背骨のクッションである「椎間板」がつぶれて飛び出したり、骨が変形したり、靭帯が厚くなることによって神経が圧迫され、足のしびれや「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」といった歩行時の痛み・違和感などの神経症状が現れるのが特徴です。
治療としては、痛み止めや筋肉をゆるめる薬、ビタミン剤、血流を良くする薬などがよく使われています。これらは症状を一時的に和らげる効果がありますが、根本からの解決にはつながらないことも少なくありません。
大切なのは、年齢や生活環境といった“外側の問題”だけでなく、体の中で起きている“内側の変化”にも目を向けることです。年齢を止めることも、すべての体の負担を取り除くこともできない以上、「どうすれば体がその負担にうまく対応できるか」という視点が必要です。
腰の痛みやしびれは、単なる「不具合」ではなく、「これ以上無理をすると危険ですよ」という体からのサインでもあります。背骨はもともと、脳からの指令を全身に伝える大切な神経を守る役割を果たしています。そのため、体が異変を察知すると、神経を守ろうとして骨が変形したり、椎間板がつぶれたりするような“守るための反応”が起きることもあるのです。
従来の医療では、骨や椎間板などの「構造の変化」に注目して診断・治療が進められてきましたが、カイロプラクティックでは「神経の働き」に着目する考え方を採用しています。神経が正常に働いていれば、脳が体の異常を正しく感じ取り、体を自分で回復させる力=自然治癒力を高めることができます。
腰部脊柱管狭窄症は、時間をかけてじわじわ進行することが多く、慢性的に腰のクッション(椎間板)がすり減ってしまっている場合も多く見られます。これを放置すると、体の構造だけでなく神経の働きにも影響が出て、症状が長引いたり悪化したりすることがあります。
だからこそ、表面的な痛みだけにとらわれず、「なぜ今、体がこのような状態になっているのか?」という根本の部分に向き合い、神経と体のバランスを整えていくことが大切です。
執筆者細井カイロプラクティック細井 康隆
埼玉県さいたま市出身。2011年にスポーツトレーナーとメディカルトレーナーの資格を取得後、2014年に国家資格の柔道整復師資格を取得。接骨院・整体院での臨床と経営経験から多くのセミナー講師を務め、その参加人数は延べ2,000人以上を数える。その後カイロプラクティックと出会い、日本カイロプラクティックのパイオニアである塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.が主宰である塩川スクールで学ぶ。2025年に卒業し、埼玉県さいたま市大宮区にて細井カイロプラクティックを開業。現在は本物の技術を提供するカイロプラクターとして、臨床で多くの患者様と真摯に向き合い施術を行う傍ら、塩川スクールでインストラクターとして後進の指導を行っている。