

患者は、製造業に携わり、営業と製造の2つの部署を担当している方である。
車での長時間の移動、重いものを持ち上げる動作、起床時の起き上がり時に痛みが出る。4年前から気になるようになった。きっかけは転職した時期と近く、今の仕事が良くないのではないかと思っている。
営業では、東京まで 2-3時間運転することがあり、腰痛があるのは当たり前で、学生時代も腰は気になることがあった。
痛みの範囲は腰椎4番、5番あたりであり、腰の中央付近である。範囲が広がったり、場所が変わることはない。発症時から痛みの度合いは変わらず、常に辛い感じで、毎日気になる程度だが、生活はできるし、動けないほどではない。痛みの質はズーンとした鈍痛である。
睡眠は取れていると感じている。6時間ほどで、疲れは少し残っているが、そんなもんだろうと思っている。
車の運転ができなくなったら困るのと、重いものを持つことができないと仕事を続けられないという不安があり、日常生活を痛みなく過ごせるようになることが大切だと感じている。
当院を選んだ理由は、今まで整体に通っていたが、カイロプラクティック院である当院の評判が良く、カイロプラクティックを受けてみたいという希望を持って選ばれた。
左腰部の過緊張
右胸鎖乳突筋の過緊張
初診時の状態では、腰部前弯カーブが強く、左仙腸関節の可動制限、腰部の緊張は両側とも強いが左腰部の過緊張が確認できた。学生時代からの慢性的な腰痛と筋緊張や左仙腸関節が強く制限されていることから、週2回のペースを勧め、スタートとなった。
2週目(3回目のアジャストメント)では、起き上がりが楽になっており、疲れた日の翌日も疲れの残っていない。下痢もあまりなく、以前は着込んでいても寒いと感じていたのだが、着込めば寒いと感じなくなくなった。筋緊張は変わらずあり、神経の回復スピードと週2回を継続していく重要性を伝えた。
3週目(5回目のアジャストメント)では、東京出張で、腰部に問題なく運転できた。腰部の筋緊張が弱くなり、前回の状態を維持できている。発症当時は車の運転中に肩こりを感じていたが、肩こりも感じなくなっていた。お腹の調子も良く、下痢もしていないとのこと。
状態の維持や調子の良さから7回目は週1回と徐々に間隔をあけていった。
11週目(10回目のアジャストメント)では、東京出張に行ったが問題なかったとのこと。前かがみの作業で腰が痛くなっても痛みを引きずらなくなった。下痢もすることなく調子がいい。
現在は、患者は大きく調子を崩すこともなく、動きやすさや健康の重要性に気づいたとのこと。そこで、定期的なケアによって身体の治る力を維持する大切さを伝えたところ、仕事の合間をみながら月1回のペースでカイロプラクティック・ケアを継続している。
本症例は、「痛みがあるのが当たり前」と感じながらも仕事を続けてきた30代男性の慢性的な腰痛のケースである。車の運転や重いものを持つ動作など、日常生活の中で同じ動きにより痛みが再現されることが特徴的であった。
このことから、筋肉や関節といった構造の問題よりも、神経や脳の働きがうまく調整できていない状態にあった可能性が高いと考えられる。
初診時には左仙腸関節の動きが悪く、両腰部の緊張が強かった。また、上部頚椎にも可動制限がみられ、身体の「上と下」で神経のバランスが崩れていることがうかがえた。骨盤は身体の土台であり、上部頚椎は脳と身体をつなぐ重要な部分である。
冷え性、下痢、慢性的な疲労感といった症状や、レントゲン以外の4つのクライテリア(体表温度検査、視診、静的触診、動的触診)から、骨盤と上部頚椎にアジャストメントをしていくことに決めた。
この二つの領域はどちらも副交感神経の支配領域であり、この領域でサブラクセーションが起きると、交感神経優位な状態となる。脳と身体のコミュニケーションが乱れ、筋肉が過度に緊張したり、内臓機能が働きにくくなったりすることがある。本症例でみられた肩こり、冷え、下痢といった全身的な症状も、こうした神経の調整機能の乱れに関連していたと考えられる。
アジャストメントを続ける中で、2週目には起き上がりが楽になり、疲れを引きずらなくなった。3週目には長時間の運転でも痛みを感じず、肩こりや下痢も改善している。これらの変化は、単に腰の筋肉が緩んだというよりも、神経の働きが整い、脳が正しく身体をコントロールできる状態に近づいた結果だと考えられる。10週目には前かがみの作業をしても痛みが長引かず、身体が自然に回復できるようになっていた。
このように、痛みの改善が「一時的な緩和」ではなく、「回復の早さ」と「再発しにくさ」として現れた点が重要である。これは、土台である骨盤が安定したことで、不安定になっていた脊柱全体を筋肉を常に緊張させることでコルセットのように安定させようとしていた身体の防衛反応が必要なくなった結果と言えるだろう。
これは、神経に過度な負担がかかることなく神経伝達機能が安定的に働くようになった証拠でもあり、自然治癒力が十分に働ける環境が整ったと考えられる。現在は月に1回のケアで状態が安定しており、仕事上避けられない運転や重労働にも安心して取り組めている。
総じて、本症例は、骨盤と上部頚椎に生じたサブラクセーションが、脳と神経の伝達を乱し、慢性的な腰痛と全身症状を維持していた可能性が高い。アジャストメントにより神経の流れが回復し、自律神経バランスや土台の安定性を取り戻したことで、自然治癒力を発揮できるようになり、患者自らの力で症状が自然に改善していったと考えられる。
日々の健康に感謝し、自分の身体の治るチカラに気づくことで、痛みのない生活だけでなく、前向きに仕事に取り組めるようになった。本症例は、人間が本来もつ自然治癒力の素晴らしさを改めて感じさせてくれた印象的なケースであった。


執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二
東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。