
11月頃から歩行時や就寝時に腰や股関節に痛みが出るようになった。3日前にもまた痛みが強く出たため、整形外科に行き、注射をしてもらったところ、一時的に股関節の痛みは軽減したが、大腿前面の痛みが消えなかった。
朝は腰痛が強く、起床後1時間ほどは痛いが、活動をしていくなかで段々と痛みは軽減する傾向がある。横になっても痛みはあり、寝返りでも痛みが生じ、夜は痛みで目が覚めてしまうことがあった。また、起き上がる時に手をつくせいか、肩も痛くなって重い感覚がある。3年前には五十肩の診断を受け、整形外科で注射治療したが、治りきらなかった。
腰のサポーターを巻いており、これがないと腰が楽にならないと感じている。安静にしているように言われたことがあるため、腰のために良いと思って、仕事の時など動く時には常にサポーターをつけているとのこと。
15年前から耳鳴りがあり、特に夜間の静寂時に低音が聞こえることが多く、睡眠導入剤を服用するほど寝つきが悪い状態が続いている。また、足の冷え、20年間あるむくみも気になっている。足が冷えて起きてしまうこともある。便秘をしていることがわかった。
症状がこのまま進行して治らなかったら歩けなくなっちゃうんじゃないかということを不安に感じており、症状が改善したらお嬢さんとディズニーランドに行きたいという希望を持っている。
当院は以前「ぎっくり腰」でウェブ検索した際に見つけており、今回は「痛み」を検索ワードにして再度調べた結果、再びヒットしたことから「運命的なもの」を感じてカイロプラクティック・ケアを受ける決意をされた。
右短下肢
右仙腸関節の可動制限
頚椎1番右側屈制限
初回では、右仙腸関節の可動制限、腰部筋の過緊張、頚椎1番の右側屈制限、右胸鎖乳突筋の過緊張から週2回のカイロプラクティック・ケアを提案してスタートした。2回目では、便秘が解消され、スルスル出てくるようになったことに驚いていた。
3週目( 5回目のアジャストメント)では、寝ているときの腰が抜けるような感じが消えた。腰の調子が良く、痛みによって寝ている最中に目が覚めることもなくなったことを喜んでいた。
4週目(6回目のアジャストメント)では、仕事中のサポーターをやめてみたが、腰の痛みが出ることはなく大丈夫だった。めまいも起きておらず、肩こりも気になっていない。
9週目(10回目のアジャストメント)では、東京へのお出かけを試みたが、腰は全く問題なく、むしろ歩きすぎてしまうほど改善された。サポーターも全く使っておらず、足のむくみは気にならなくなった。
現在は、間隔をあけて3週間ペースでカイロプラクティック・ケアを受けている。
本症例は、腰痛を主訴とする様々な症状に対して、ほとんどの症状が自律神経の交感神経が過剰となっているものであると考え、副交感神経へのアプローチに絞って臨んだ症例である。
今回の腰痛の症状は、「横になっても痛みがある」「歩行時の痛み」であることから、骨盤部のサブラクセーション(根本原因)であると考えた。骨盤部と後頭骨から頚椎5番までを支配している自律神経は、副交感神経である。冷え性や耳鳴り、めまいに関しても副交感神経サブラクセーションが関係しているため、症状とも合致する。
腰痛の場合、多くは腰部の筋肉が固まっている。これは骨盤部もしくは腰部のストレスが原因であると考える。人間はストレスを受けると、そのストレスに対抗するため交感神経が刺激される。その結果、血管の収縮が続いて、疲労物質が溜まって筋緊張が起きる。
この時、血管を拡張させて血流が促進させようとするのがプロスタグランジンというホルモンである。このホルモンは体を回復させようとするホルモンであるが、発痛作用もある。つまり、固まった腰が痛く感じるのは、体を回復させようとした時に起こる「正常な反応」である。
耳鳴りは、上部頚椎サブラクセーション(根本原因)によって、耳から脳に音を伝える内耳神経の働きが乱れてしまい、耳から脳に送られる音の情報が正しく伝わらなくなることが原因であると考える。そのような状態で、脳がさらに音を拾おうと過剰に反応し始めると、本来聞こえないはずの情報まで脳が無理に音として処理しようとする。これが耳鳴りとして感じられると考えられる。
めまいは、耳の内耳にある三半規管が関係している。体の平衡感覚を司っているのは三半規管であるが、その中のリンパ液の量が適切であると平衡感覚が正常に働く。しかし、交感神経が過剰になることで、リンパ液が必要以上に産生されると、体が動いていないのに「体が動いている」と勘違いしてしまい、めまいが発症すると考える。
耳のリンパ液は、音の振動をスムーズに伝えるために重要な役割を持っているため、リンパ液の異常、ひいては交感神経過剰がめまいと耳鳴りの両方の問題と関係していたと考えられる。
本症例では、頚椎1番と骨盤に問題の根本原因があると考え、神経系を絞ってアジャストメントをしたことで、副交感神経サブラクセーションが取り除かれ、脳と神経の情報伝達が正常に行われるようになり、自然治癒力が発揮されるようになったと考える。
アプローチをある程度絞れる段階まで、しっかりと話を聞き、検査で的確に患者の状態を見定め、あちこち触らずに神経系を絞ってアプローチすることの重要性に気づけた症例であった。
執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二
東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。