
這って進む状態だった腰痛
2023年7月頃から特にきっかけもなく腰に痛みを感じるようになりました。最初はそれほど強い痛みではなく、しばらく様子を見ていたところ、8月には一度おさまり、日常生活にも問題はない状態に戻っていました。
ところが、12月に入ったころから、右のお尻から太もも、ふくらはぎにかけて痛みが出るようになり、今までとは違う強い痛みを感じるようになりました。その痛みはどんどんひどくなっていき、2024年1月には歩くことすらつらくなってしまい、心配になって病院を受診されました。
病院ではレントゲンとMRIを撮り、「腰の4番目と5番目の間に軽いヘルニアがあります」と説明を受けました。そこから痛み止めの薬と牽引治療(機械で腰を引っ張る治療)を続けていましたが、痛みは治まるどころかどんどん悪化し、ついにはまっすぐ立つことさえできなくなってしまいました。
このままでは日常生活が本当に大変になると感じ、なんとかしたいという思いで情報を探していたところ、YouTubeで当院の動画を見つけられました。内容に共感し、「ここなら助けてもらえるかもしれない」と感じていただき、来院されることを決意されました。
仙骨周囲の顕著なスポンジ状の浮腫感
右仙腸関節の可動制限
腰部起立筋の過緊張
初回では仰臥位や側臥位も取れないため、座位での所見よりL4神経根症状見られたが土台である右仙腸関節(P-R)に対して伏臥位で腰部屈曲位のままポンピングを行った。
1週目(2回目のアジャストメント)、前回後少し眠りやすくなったが、痛みとしびれは変化ないとのこと。レントゲンではL4/5椎間板はD5の慢性度合。L3,4後方部が開いているため補正と判断。ファーガソン角10°。BPも考えられたが、右仙腸関節制限残存のためP-Rを継続してポンピング。慢性度合と状態を考えると週2.3回が理想だが遠方で旦那さんの都合上、週1でケアを開始した。
3週目(4回目のアジャストメント)背中を少しづつ伸ばせるようになってきて、前回から側臥位も可能になっている。姿勢保持が出来るようになってきて右仙腸関節も可動してきた。浮腫も腰仙部を中心に範囲が狭まってきたので、BPをスラスト。T12は正面像で補正のようなので、ASLをスラスト。
12週目(15回目)その後もBPとASLで週1ケアを続けており、姿勢保持や右大腿四頭筋MMT5、知覚鈍麻なし。経過確認も兼ねて再度X-P。現在は趣味の卓球を再開し月1回のケアを受けている。
今回の症例から痛みが実際に出ている場所、すなわちL4神経の支配領域にのみ注目するのではなく身体全体の構造、特にその「土台」となる骨盤の状態を正確に評価し、そこに対して適切にアプローチを行うことの重要性を改めて確認することができた。L4神経根にかかるストレスは、必ずしもその部分の直接的な構造異常や病変から来ているとは限らない。むしろ、身体のバランスを支える仙腸関節や骨盤帯のわずかな歪みが、脊柱全体に波及する形で特定の神経根に慢性的な負荷をかけているケースは少なくない。
この患者さんの場合、レントゲン検査からはL4/5椎間板の慢性変性(D5レベル)が確認され、これ自体が症状の一因である可能性は否定できなかった。しかし実際の経過を追っていく中で、症状の改善には腰椎そのもの以上に、骨盤へのアプローチが効果的であったことが明らかとなった。つまりL4神経根に関わる痛みや筋力低下、感覚異常といった神経症状は結果として現れていたにすぎず、原因はもっと下流、つまり骨盤周囲の不安定性や可動性の低下にあったと考えられる。
慢性症状に対する施術において重要なのは、最初から無理に大きな刺激や強い矯正を行うのではなく、その人の状態に応じて“段階的”にアプローチを進めていくことである。今回のように、長期にわたり身体のバランスを崩していたケースでは、最初の段階では痛みが強すぎて仰向けや横向きになることすらできず、通常の施術体勢を取ることが困難であった。そうした状況下で伏臥位のまま仙腸関節へのポンピングからスタートし、徐々に姿勢保持力が回復するにつれて、側臥位での調整や骨盤・胸腰移行部へのスラストと施術を一段階ずつ進めていったことで、無理なく確実な回復につながった。
また、今回の経過を通じて再確認されたのは、「症状」だけを手がかりにしてサブラクセーション(神経伝達異常)を特定しようとすることの限界である。痛みやしびれといった症状はあくまで結果として出ている“サイン”であり、複数の角度からの検査と評価が必要不可欠である。
当院では、主に以下の5つの検査システムを用いて、神経の働きと関節の状態を多面的に評価している。
これらの検査によって得られる情報を総合的に判断し、どの部位に優先的な干渉があるのか、どの順番で調整を行うべきかを戦略的に組み立てることで、より高い精度でサブラクセーションの特定が可能となる。
本症例は、そのような「全体から見て部分にアプローチする」という5つの検査システムを通して実践したことで、症状の改善にとどまらず生活の質(QOL)の向上にも結びついた好例であった。趣味である卓球を再開できたことや、身体への不安が軽減したことで日常生活に自信を取り戻されたことは、まさにケアの目的が達成された証である。
このような症例を通じて、痛みのある部位だけを追いかけるのではなく身体全体の調和を重視したアプローチの重要性と、それを支える検査・分析の質の高さが長期的な健康回復にいかに影響するかをあらためて実感することができた。
執筆者塩川カイロプラクティック治療室金城 寿生
1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティック治療室に入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。