

ゆっくり食事ができる様になりました
1ヵ月半ほど前から左臀部に違和感を覚えるようになった。最初は仕事の疲れによるものだろうと考え特に気に留めてはいなかった。しかし数日が経つにつれその違和感は太ももの外側、さらにふくらはぎへと広がり、やがてビリビリとした強い痛みとしびれを伴うようになっていった。
発症当初は腰の痛みが主であったが、次第に左下肢への放散痛としびれが前面に出てきたことで「これまで経験してきた腰痛とは明らかに違う」という不安を抱くようになった。
5年前にトラック運転手へ転職する以前は飲食業に従事し、長時間立ちっぱなしで働く生活を送っていた。当時も腰に疲労感や軽い痛みを感じることはあったが、今回のように強い痛みやしびれを伴うことはなかった。
現在の仕事では長時間の運転に加え、荷物の積み込みや荷下ろしといった身体への負担が避けられない。運転中も左臀部から下肢にかけて重だるさを感じ、特に荷作業の際には痛みが一気に増強するため仕事に集中することが難しくなっていった。
症状が悪化してから1ヵ月ほど経った頃耐えきれず整形外科を受診した。レントゲン検査の結果、腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛と診断されたがMRI検査は行われなかった。湿布と痛み止めが処方され「しばらく様子を見ましょう」と説明を受けたものの不安が完全に拭えるわけではなかった。
実際痛み止めが効いている間は多少楽になるものの、効果が切れると左臀部から足首にかけての痛みとしびれが一気に戻ってくる。運転席への乗り降りだけでも腰から脚に響くような痛みが走り、症状が強い日には1日3回痛み止めを服用しながら何とか仕事を続けている状態であった。
休日に家で安静にしていても症状は改善せず、横になっていても左下肢のしびれは常に感じられた。子どもと遊ぶこともできず、食事の際も椅子に長く座っていられないため立ったまま食事をすることさえあったという。
「休めば良くなる」という感覚がまったく得られず、起きている間は常にしびれを意識してしまうのが何よりもつらかった。
痛み自体はやや軽減傾向にあるものの、しびれに関してはほとんど変化がなく生活の質は大きく低下していた。
このまま薬に頼りながら仕事を続けてよいのか、悪化してしまうのではないかという不安を抱えつつ来院前には他のカイロプラクティック院でも施術を受けていたが、明らかな改善は感じられなかった。
そうした中、偶然目にしたYouTubeをきっかけに当院を知り「一度きちんと原因を見てもらいたい」「このしびれを何とかしたい」という思いが強くなり来院を決意された。
右乳様突起周囲の緊張
左仙骨翼のぶよぶよした浮腫
左臀部にうっすらとした熱感
初診時の評価では、頸椎・腰椎ともに椎間板変性はD5と慢性度が高く、下肢への神経症状も顕著であった。本来であれば週2回の来院が望ましい状態であったが、トラック運転手という職業柄シフトが不規則で休日出勤も多いことを考慮し週1回を基本としつつ可能な範囲で来院してもらう形でケアを開始した。
2週目(2回目のアジャストメント)には、症状に目立った変化はみられなかった。左下肢の痛みと軽度のしびれは引き続きふくらはぎ外側に残存しており、左仙腸関節には明らかな可動制限を認めた。
また左腰部起立筋の強い緊張が骨盤帯まで連続しており、PSIS下端には浮腫と圧痛が残っていた。腰部・骨盤部の防御反応が強く、神経症状への配慮からこの時点ではアジャストメントは浅めに行い、刺激量を抑えた調整とした。
3週目(3回目のアジャストメント)には、ふくらはぎのしびれ感はわずかではあるが減弱傾向を示した。朝食時と就寝前に痛み止めを服用しており、服薬量は徐々に減ってきている。ただし痛みに関しては服薬の影響もあり、本人としては明確な変化を実感しにくい様子であった。
一方で「仕事中よりも、家でじっとしている時の方が腰の痛みを感じやすい」という訴えがあり、活動量と症状の関係性に変化がみられ始めていた。
7週目(4回目のアジャストメント)には、来院時の症状のピークを10とした場合しびれの感覚は2〜3程度まで軽減していた。痛みは依然として残っているものの、特に左PSIS周囲とふくらはぎ外側に限局する傾向がみられた。
痛み止めは徐々に減量できており「最初は座っていられないほどだったことを考えるとかなり楽になってきた」と本人も変化を実感していた。左腰部起立筋の緊張は以前より明らかに緩和し骨盤部の浮腫も大きく減少していた。
また仕事で使用するトラックがオートマからマニュアルに変わりクラッチ操作で左下肢を使う機会が増えたことで、結果的に左下肢の可動が増え、痛みを感じる頻度が減ってきているという興味深い変化もみられた。
10週目(6回目のアジャストメント)には、仙腸関節の可動制限はほぼ消失しており骨盤帯の安定性も向上していた。
仕事終わりや休日に長時間横になっている際に、臀部やふくらはぎに軽い痛みを感じることはあるもののいずれも以前に比べてかなり弱くなっており、痛みが我慢できずに薬を服用することはなくなった。現在は1日に0.5〜1錠を「お守り代わり」に服用する程度である。
仙骨周囲の組織の質感も落ち着いてきたため、この時点からこれまで違和感がなかったL5へのアジャストメントをポンピングではなく直接的な調整へと移行した。
今現在は左臀部およびふくらはぎに残っていた痛みはほぼ消失し、痛み止めを服用せずに日常生活および仕事を送れる状態となった。
再発予防とより根本的な改善を目的として定期的なケアを継続している。
今回の坐骨神経痛の痛みは、L5/S1椎間板の慢性的変性を背景に左仙腸関節の機能不全が持続したことによる腰仙部神経への過負荷によるものと考えられる。
整形外科では腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛と説明を受けていたが、本症例ではMRIによる明確な神経根圧迫の確認はなされていない。また下肢の感覚検査・筋力検査に明らかな神経脱落所見は認められず、SLR陽性である一方で神経学的欠損はみられなかった。この点からも、強い構造的圧迫というよりは神経根周囲の機能的ストレスや炎症性反応が主な要因であった可能性が高い。
レントゲン評価ではL5/S1椎間板はD5レベルと慢性度が高く、腰椎前弯カーブは著しく減少していた。さらに左仙腸関節には明確な可動制限と浮腫、左臀部には熱感が確認されている。これらの所見は骨盤帯に持続的な負荷が集中し、腰仙部神経に慢性的なストレスが加わっていたことを示唆する。
坐骨神経はL4〜S3神経根から構成されるが、特にL5/S1レベルは坐骨神経痛との関連が深い。本症例ではL5/S1椎間板変性に加え、左仙腸関節の可動低下が存在していたことで骨盤の不安定性が持続し、神経根周囲の循環障害や浮腫を助長していたと考えられる。神経はわずかな圧や循環低下でも機能が低下し、痛みやしびれとして出力される。感覚・筋力に異常が出る前段階として、持続的なしびれが前面に出ていたことは神経機能低下の初期段階を示していた可能性がある。
さらに胸椎ディッシングや頚椎前弯減少も確認されており、骨盤を起点とした補正が脊柱全体に波及していた。脊柱全体の可動性が低下すると、局所にかかるストレスはより集中しやすくなる。長時間運転による振動刺激と荷役動作による急激な負荷が、この機能的不安定性を固定化させていたと考えられる。
アジャストメントにより左仙腸関節の可動性が変化し、骨盤帯の浮腫が減少していく過程で、左下肢のしびれは段階的に軽減した。特に仙腸関節の安定性が得られた後にL5へ移行したことで腰仙部の神経環境がさらに整い、薬に依存しない状態へと移行していった。
慢性的なD5レベルの椎間板変性が存在していたにもかかわらず症状が安定方向へ向かったことは、形態的変化そのものよりも神経機能の状態が症状発現に大きく関与していることを示している。画像所見の重症度と神経機能の回復可能性は必ずしも一致しない。
本症例は坐骨神経痛が必ずしも「強い構造的圧迫」だけで生じるのではなく、骨盤機能不全を起点とした神経への持続的ストレスによっても生じ得ることを示す症例である。適切な部位への最小限のアジャストメントにより神経機能が安定していくことで、慢性変性を伴うケースであっても状態の変化は十分に起こり得ることが示唆された。


執筆者塩川カイロプラクティック大木 信之
千葉県成田市出身。初めてのカイロプラクティックを受診後カイロプラクティックの可能性を直感し、長年従事した仕事を辞め4年制の東京カレッジオブカイロプラクティックに入学。様々なテクニックを学ぶ中で最も本質的なガンステッドカイロプラクティックを追求していくことを決意する。卒業後名古屋市内のガンステッドカイロプラクティック専門院を経て塩川カイロプラクティックに勤務。