

以前から自身の姿勢の歪みを気にしており、日常生活で困った症状などを感じることはなかったが、過去に右膝の内側に痛みを経験したことがある。また、2024年7月から約半年間、脊髄膜外血腫により入院を経験し、その影響で両足の麻痺を伴い、一時的に車椅子生活を余儀なくされた。
血腫は右背部に形成され、神経を圧迫して歩行困難となった。入院中は7月から9月頃まで車椅子での生活を送り、その後リハビリを経て徐々に歩行が可能になったものの、現在もふらつきや足裏のしびれ(特に前面・親指側)が続いている。
さらに、過去に感染性心内膜炎を発症し、その影響で開胸手術を3回受けている。手術の際に使用された抗生物質(ゲンタシン)の副作用により右耳の完全な聴力喪失および持続的な爆音のような耳鳴りが発生した。現在も右耳は爆音が聞こえ、左耳はキリキリと音が聞こえ、両耳とも耳鳴りや雑音が聞こえる状態である。
現在は両側に1本ずつ、計2本の杖を使用して歩行しているが、室内では使用せず歩くことが可能である。しかし、屋外の凹凸のある路面ではバランスを崩すことがあり、安全のために杖を使用している。
そんな中、「身体の歪みを正し、自然治癒力を高めることで様々な不調を改善できる」という話を聞き、自分の症状や生活スタイルに合ったアプローチだと感じたことが、カイロプラクティックを受診する大きなきっかけとなった。これまでにさまざまな治療を試みてきたが、根本的な改善には至らず、より本質的なアプローチを求めていた。
医師からは耳が聞こえるようになる可能性はゼロに近いでしょうと言われたが、カイロプラクティックでは、神経は切断などされていなければ、必ず再生する可能性があるという話を知人から聞いたことで、自分の身体の可能性を信じたくなった。
現在は、ふらつきがあるため歩行も杖をついているが、いずれ杖を使わずに旅行などにも行けるようになりたい!と希望を持って今回来院された。
右仙腸関節の可動域制限
右腰部起立筋の過緊張
頸部右胸鎖乳突筋の過緊張
初診時、患者は既往に脊髄膜外血腫や感染性心内膜炎があり、車椅子生活を経験した影響で足のふらつきや足裏のしびれが顕著で、両手杖を使用していた。強い耳鳴りがあり、自律神経への負担も推察された。レントゲン検査ではL5椎間板周囲の負担と頚部前弯カーブ減少が確認されたため、初期集中ケアとして週2回のペースを提案し、患者の身体への負担を考慮してアジャストメントを開始した。
1週間後(2回目のアジャストメント)には、「階段をスムーズに下りられるようになった」と自覚的な改善があり、全身の動作にも軽さを感じ、身体への意識が向きやすくなった。
2週間後(4回目のアジャストメント)には、朝の目覚めが改善され、起床時の身体の重だるさが緩和したほか、これまで2~3段ごとに休憩が必要だった階段の下り動作を休まず行えるようになった。骨盤部のアライメントも徐々に安定し、歩行バランスが向上した。
3週間後(6回目のアジャストメント)には、前回のアジャストメント翌日に骨盤の動かしやすさを実感し、毎朝継続しているストレッチ効果と相まって階段の下り動作はさらに安定した。一方、耳鳴りに関しては爆音やキリキリした音が続いており、薬剤副作用の可能性を考慮し、聴力面については経過観察をしながらケアを続ける方針とした。
5週間後(9回目のアジャストメント)には、視診上も足運びが顕著に改善され、本人も歩きやすさを強く実感した。姿勢の乱れに自ら気付けるようになり、意識的に姿勢を正す頻度が増え、近所の移動程度なら片手杖でも不安なく歩行可能になった。以前は両手杖が歩行のために不可欠だったが、杖が歩行の要という状態から「ファッションのように」に感じるまでに回復した。
この間、腰部と上部頸椎を中心に、副交感神経支配領域である骨盤部や上部頸椎へのアプローチを継続し、下肢のふらつきや足裏のしびれは段階的に改善が見られ、現在では片手杖での歩行も選択できる状態まで回復している。耳鳴りについては、引き続き定期ケアを通じて神経機能全体の向上を目指し、経過を見守っている。
本症例の難聴、ふらつきの症状は、上部頚椎のサブラクセーションが関係している可能性があると考えられる。
人間の体には、脳から直接出ている12種類の神経(脳神経)があり、これらの脳神経は、目や耳、顔の筋肉や内臓など、頭や首のさまざまな部分に命令を送っている。この中で、「内耳神経(第8脳神経)」と呼ばれる神経は、聴覚と平衡感覚をコントロールしていて、耳で音を感じたり、まっすぐ立つためのバランス感覚を支えている。
そして、この脳神経の働きを守るために非常に重要な役割を果たしている上部頚椎は、副交感神経領域である。上部頚椎のサブラクセーションによって、脳と体をつなぐ神経に圧迫が生じると、耳と脳をつなぐ内耳神経の働きが乱れてしまい、耳から脳に送られる音の情報が正しく伝わらなくなるため、必要な音が脳に届かず、聞こえにくい(難聴)という状態が生じる。
また、脳が「聞こえないからもっと音を拾わなければ」と過剰に反応し始めると、わずかな電気信号や本来聞こえないはずの情報まで脳が無理に音として処理しようとして、これが耳鳴りとして感じられる。さらに、上部頚椎のサブラクセーションが原因で、耳の内部で音を調整する機能も乱れてしまう。そのため、音の問題だけでなく、体のバランスを取る機能にも影響が出ることがあり、ふらつきやめまいを感じる場合がある。
今回の症例では、薬の副作用による耳鳴りなどの症状を申告されていた。これに関しては、実際に、音を聞くために重要な働きをする内耳の中の聴覚細胞が、薬の使用によって傷ついてしまうことがあると報告されている。聴覚細胞は、音の振動をキャッチして、それを脳へ届けるための電気信号に変える役割を果たしているが、この細胞はとても繊細なことが考えられるため、長く薬を飲み続けたりすることで、音の振動を感じる力が弱まってしまうと思われる。
そのため、聴覚細胞がうまく働かなくなると、耳に入った音の振動を電気信号に変えることができなくなることで、脳に届けるはずの音の情報が伝わらなくなり、音が聞こえにくくなる、いわゆる難聴の状態が起こることが考えられる。
さらに、内耳の中には「内リンパ液」という液体があり、音の振動をスムーズに伝えるための重要な役割を持つとともに、体のバランスを保つ平衡感覚にも関わっている。
しかし、薬の副作用によって、このリンパ液の量が減ったり、成分のバランスが崩れたりする事があり、音の振動が耳の中でうまく伝わらなくないことで耳鳴りが生じる場合がある。リンパ液は平衡感覚を支えているため、異常が続くとめまいの症状につがなることもある。
自律神経のバランスが乱れることでもリンパ液の分泌量に異常が起こることがあり、身体が動いていないのにリンパ液が動くことで、脳が身体が動いていると錯覚を起こし、ふらつきなどにつながる場合もある。
このように、難聴やふらつきの症状は、副交感神経領域の上部頚椎のサブラクセーションによって内耳神経の機能が低下している可能性と、薬の副作用による自律神経のバランスの乱れが影響している可能性の2点が考えられた。
カイロプラクティック・システムでは、それぞれの機能を帳消しにしてしまうため、交感神経と副交感神経のサブラクセーションを区別してアプローチを決定することが重要である。
そのため、今回は上部頚椎に合わせて、副交感神経領域のサブラクセーションに絞ってアプローチしていく方針を立てた。
さらに、筋骨格系の面では、検査にて骨盤の傾きであるASIN腸骨の兆候が見られた。
歩行するときに足がまっすぐ出せない、過去の膝内側の痛み、歩幅が狭くなること、などは全て骨盤の傾きが関わっていると考えられたため、土台の骨盤部のサブラクセーションにもアジャストメントを行った。
ケアを続ける中で骨盤の動きが改善していったことからも、これが原因となっていたと考えられる。
今回の症例では、骨盤部・上部頸椎を中心に副交感神経に絞って重点的にアプローチを続けたことにより、足の機能改善が現れるなどの明らかな変化が見られた。症状に囚われて全身をあちこち触るのではなく、検査結果に基づき神経の優先度を判断し、神経系を絞ってアプローチすることによって、神経のコミュニケーションを改善し、患者が本来持っている治癒力を最大限に引き出すことが重要だとわかる症例である。


執筆者塩川カイロプラクティック・埼玉カイロプラクティック 大宮Kソレイユ菊地 雄介
埼玉県熊谷市出身。スポーツインストラクターを専門的に学び、大手整体サロンに就職。副店長として施術と人材育成にも携わるが、本格的な施術で多くの方を健康に導きたいと思い独立。様々なセミナーを通じ探求する中で塩川カイロプラクティックに出会う。身体が劇的に変化していくのを目の当たりにし、この道を極めたいと考えてシオカワスクールに入校。本物のカイロプラクティックの可能性と奥深さに感動し「本物の技術を学び、より多くの人に伝えたい」という想いが強くなり、塩川カイロプラクティックでの勤務をきめた。カイロプラクティックの力で皆様の健康を全力でサポートします。