
行きたかった旅行へ行けた
もともと身体を動かすことが好きで、畑仕事や庭の手入れなどを日常的に行っていた。2021年、清掃作業中に鏡を拭いていた際、突然腰に嫌な痛みを感じたことが始まりであった。そのときは大きな動作をしたわけでも、転倒したわけでもなかったが、腰の奥に違和感が残り、その後も痛みが断続的に続くようになった。痛みを和らげようと市販の鎮痛薬を服用したり、湿布を貼るなどして様子を見ていたが、なかなか改善の兆しは見られなかった。
それ以前は畑作業なども行っていたが、痛みの影響もあり、次第に重労働を避けるようになった。それでも自然や花を愛する気持ちは変わらず、近年では自宅の庭で花を育てたり、雑草を抜いたりすることが日課となっていた。また、地域の道の駅で清掃の仕事に携わり、そこで自ら育てた花を生け、来店客から「きれいですね」と声をかけられることが何よりの楽しみであり、生きがいとなっていた。しかし、次第に自宅の庭までの坂道を上り下りするのがつらくなり、以前のように活動的に動けない自分に歯がゆさを感じるようになっていった。
そして2024年に入り、これまでの腰痛に加えて左足に痛みとしびれが出現するようになった。歩行や立ち上がりの動作が一層つらくなり、心配になって病院を受診したところ、MRI検査の結果「腰椎すべり症」と診断された。医師からは年齢や骨の変化に伴うものだと説明を受け、痛み止めやリハビリで経過をみるよう指導されたものの、症状は徐々に悪化していった。特に夜間や朝方の痛みが強く、寝返りのたびに目が覚めるほどで、日常生活の中でも「このまま歩けなくなるのではないか」という不安が強まっていった。
そんな中、どうにかして痛みを改善したいという思いから、インターネットで様々な情報を検索していた際、偶然YouTubeで塩川先生の動画を目にした。動画の中で先生が、「70歳はまだまだこれからの人生です。必ず良くなります。希望を捨てないでください」と力強く語っている姿に深く心を打たれた。これまでどんな治療を受けても良くならなかった自身の状況と重なり、その言葉がまるで自分に向けられたように感じられたという。
「ここしかない」と直感し、長年悩み続けてきた痛みと向き合う決意を固め、思い切って当院へ来院された。
仙骨周囲の顕著なスポンジ状の浮腫感
左仙腸関節の可動制限
腰部起立筋の過緊張
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD4/5レベルで整形外科で診断を受けている腰椎4番のすべり症が確認された。首の前弯カーブ(前カーブ)は減少し、頸の椎間板の段階は慢性的なD5レベルが確認された。
初期集中期では本来、週2回のケアが望ましい状態であったが、遠方のため週1回の1日2回のケアから開始した。
3週目(5回目のアジャストメント)には、初回は眠気が凄く出たが、最近は落ち着いてきた。歩行は少し楽になったが、腰痛や左足のしびれはあまり変化ないと。
5週目(8回目のアジャストメント)には、左仙腸関節がしっかり可動してきた。立位や座位時の前傾姿勢が目立たなくなってきた。腰部起立筋の過緊張と腰仙部の浮腫は残存。庭作業中などの腰痛や左足のしびれは変化なしと。可動制限が残存しているL5に移行。
8週目(11回目のアジャストメント)には、腰仙部の浮腫が軽減してきている。腰部起立筋の緊張も軽減してきた。日によって左足のしびれが無い日もでてきた。C1は可動してきて体表温度誤差と可動制限が残存しているC5に移行。
11週目(15回目のアジャストメント)には、最近は左足のしびれが無く、坂の上りや下りも腰痛になることなく不安なく作業が出来るようになってきたとのこと。当院の工事期間もあり次回来院が1か月ごとなった。
15週目(16回目のアジャストメント)には、1か月の間も全く問題なかったと。腰仙部の浮腫も軽減しており、再度1か月後に経過確認することとした。
16週目(17回目のアジャストメント)には、日常生活で問題なく活動できている姿を見て、旦那さんから旅行の提案があり、状態も問題なく楽しめたと大変喜んでいた。
現在も定期的なカイロプラクティックケアを希望しており、メンテナンスをしていくこととした。
今回のケースでは、整形外科で腰椎4番のすべり症と診断されていたが、カイロプラクティックのレントゲン評価ではL4からのジョージズラインは正常であり、実際には腰椎5番の後方変位(L5後方変位)が根本的な問題であると判断された。初診時には腰仙部を中心に強い浮腫が確認され、体表温度検査では骨盤部と上部頸椎に明らかな左右差がみられた。また、左仙腸関節・腰椎5番・頸椎5番・頸椎1番に可動制限があり、左胸鎖乳突筋と腰部脊柱起立筋は過緊張の状態にあった。
レントゲン評価では腰椎4〜5間の椎間板が慢性的なD4/5レベルで変性しており、首の前弯カーブは減少、頸椎椎間板もD5レベルで慢性変化が認められた。これらの所見は、長期間にわたって神経伝達が阻害され、身体がその状態に適応しきれなくなっていたことを示していた。
初期段階では「土台理論」に基づき、体の基盤である左仙腸関節からアプローチを開始した。骨盤のアンバランスを整えないままL5へ直接矯正を加えると、構造的な補正が十分に働かず、かえって身体に過剰な負担を与えるリスクがあるためである。仙腸関節の可動性を回復させ、体の基礎構造を安定させたうえで、最も問題となっていたL5後方変位の矯正へと段階的に移行していった。
ケアの継続により、腰仙部の浮腫や筋緊張は徐々に軽減し、左仙腸関節の可動が回復するにつれて前傾姿勢が改善した。日によっては左足のしびれが消失するなど、神経の流れが回復している兆候が見られた。その後、上部頸椎(C1)の可動が回復し、体表温度の左右差も減少。C5の可動制限が解消されていく過程で、全身の神経バランスが整っていった。
最終的には、L5後方変位が神経伝達を妨げていた最も大きな原因であったことが明確になった。L5へのアジャストメントを行うことで、神経の流れが正常化し、腰痛や左足のしびれは完全に消失。坂道の昇降や庭作業も痛みなく行えるようになり、身体の動きが軽くなるとともに、精神的にも大きな安心感を得られるようになった。
この症例は、構造的な「すべり症」という診断名にとらわれず、神経機能の乱れを正すことで身体が本来持つ自然回復力を発揮した典型例である。L5後方変位の矯正によって神経伝達が正常化した結果、筋緊張や循環の滞りが解消し、組織の修復が促進された。症状の改善は単なる痛みの軽減ではなく、体そのものが健康な機能を取り戻していくプロセスであったと考えられる。
現在も定期的なカイロプラクティックケアを継続しており、神経系の安定を維持することで再発防止とさらなる健康維持を目的としたメンテナンスを続けている。L5後方変位の回復が神経機能の正常化を導き、自然治癒力が最大限に発揮されたことが確認できた貴重な症例である。
執筆者塩川カイロプラクティック金城 寿生
1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティックに入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。