

横になって眠れるようになり、夜が怖くなくなりました!
これまで大きな腰痛や脚のしびれを経験したことはなかったが、4〜5日前から右腰から右臀部にかけて、これまで感じたことのない痛みが出現するようになった。最初は軽い違和感程度であったが、日を追うごとに痛みが強くなり、特に仰向けで寝ている姿勢のときに強い痛みを感じるようになった。夜間は痛みで寝返りを打つことが難しく、横になっていること自体がつらく感じられる状態となっていった。
一方で、立っている姿勢では痛みがやや軽減し、歩行中も寝ているときほどの強い痛みは感じなかった。そのため、「関節や骨に異常が起きているのではないか」という不安から医療機関を受診した。約15年前にも同部位に違和感を感じてMRI検査を受けたことがあったが、その際は特に異常は指摘されなかった。今回も、痛みが強くなったためレントゲン検査を受けたが、骨に明らかな異常はみられないとの説明を受けている。
しかし、画像検査で異常がないと言われたにもかかわらず、夜間痛は続いており、特に就寝時の姿勢がつらいため、睡眠の質が大きく低下していた。もともと眠りが浅い傾向はあったが、今回の痛みが出てからは、22時頃に就床しても3時間ほどで目が覚めてしまい、その後なかなか再入眠できない状態が続いていた。夜中に一度目が覚めると、痛みや不安感が気になり、なかなか眠れなくなることが多かった。日中も強い眠気や疲労感が出現し、生活に支障を感じるようになっていた。
右腰から右臀部の痛みに加え、以前から体重の増加、高血圧、末端の冷え、むくみといった体調の変化も自覚しており、慢性的に身体全体のバランスが崩れているような感覚を抱いていた。これらの不調が重なる中で、今回の痛みと不眠が重なったことにより、「身体の一部だけでなく、全体を見直す必要があるのではないか」と考えるようになった。
仕事では立ちっぱなしの姿勢で動作を伴う作業が多く、日常的に身体を使う生活が続いていた。今回の症状に対しては、病院以外では鍼治療やマッサージをたまに受ける程度であったが、神経や身体全体の機能を含めた評価はこれまで受けたことがなかった。画像検査では異常が見つからない一方で、睡眠や日常生活に支障をきたす状態が続いていたことから、「表面的な痛みだけでなく、身体の内側の働きも含めて評価してもらいたい」と考えるようになり、カイロプラクティックは初めてであったものの、当院に来院された。
右仙腸関節の可動域制限
右上後腸骨棘上端内縁にくぼんだ浮腫
腰部起立筋の過緊張
初診時の状態では、右仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、骨盤部と上部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また右上後腸骨棘上端内縁と第一頸椎左横突起に強い浮腫が確認され、腰部起立筋と頸部胸鎖乳突筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、椎間板をD1~D6という6段階で評価していく。腰の椎間板の段階は慢性的なD5レベルで重度の骨盤の傾きや過前弯で反り腰が確認された。首の椎間板の段階は6段階中6段階の慢性的なD6レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっていた。また、首は激しい椎骨の変性が確認された。
初期集中期の段階では週3回のケアが必要な状態であったが、仕事が多忙で休みが不規則だったため、可能な限り間隔を詰めてケアを開始した。
3週目(3回目のアジャストメント)には、夜間に感じていた右腰から右臀部にかけての強い痛みが、わずかに和らいできていることを本人が自覚していた。特に、仰向けで寝た際に感じていた鋭い痛みが以前ほど強く出なくなり、寝返りが打てる時間帯が増えてきているとの訴えがあった。一方で、日中の動作時にはまだ違和感が残っており、身体全体の緊張感も強い状態が続いていた。
12週目(7回目のアジャストメント)には、右腰から右臀部にかけての痛みの出方に変化がみられた。これまで就寝時に最も強く出ていた痛みが、夜間を通して持続することは少なくなり、痛みの波が小さくなっている様子がみられた。不眠についても、夜中に目が覚める回数が減少し、目が覚めた後も以前より落ち着いて再入眠できる日が増えていた。
18週目(12回目のアジャストメント)には、右腰から右臀部の痛みは日常生活に大きな支障をきたさない程度まで軽減していた。仰向けで寝る姿勢も以前ほどつらさを感じなくなり、睡眠時間そのものが安定してきているとの報告があった。また、日中に感じていた身体全体の重さや疲労感も軽減し、活動後の回復が早くなっている感覚が得られていた。
22週目(15回目のアジャストメント)には、右腰から右臀部にかけての痛みは強く意識する場面がほとんどなくなり、夜間痛も大きく再燃することなく経過していた。不眠についても、途中覚醒はあるものの、以前のように痛みや不安感で長時間眠れなくなることは少なくなっていた。全身の緊張感も徐々に落ち着き、体調の大きな波が出にくい状態が維持されていた。
現在は、右腰から右臀部にかけての痛みを含め、初診時にみられていた諸症状は大きく落ち着いている。今後も神経機能の安定を維持し、再発を防ぐ目的で、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを継続している。
今回の右腰から右臀部にかけての痛みは、単なる局所的な筋・関節の問題ではなく、自律神経機能の乱れを背景として出現していた症状であったと考えられる。
本症例では、痛みの出現が急性であった一方で、仰臥位などの安静時に症状が強く、立位や歩行時には比較的楽になるという特徴的な訴えがみられた。これは、荷重や動作そのものよりも、神経調整機能や循環調整機能の影響を強く受けていたことを示唆する所見である。
初診時の評価においては、右仙腸関節および上部頸椎に明らかな可動域制限と浮腫が確認されていた。骨盤部および上部頸椎はいずれも、副交感神経機能と深く関与する領域であり、これらの部位に機能低下が同時に存在していたことは、身体全体が慢性的に交感神経優位の状態に傾いていた可能性を示している。
副交感神経の働きが低下すると、筋緊張の調整、血流の制御、組織の修復反応といった身体の回復機構が十分に発揮されにくくなる。その結果、明確な外傷や構造的損傷がなくても、痛みや違和感が出現しやすくなり、さらにその症状が持続・増悪しやすい状態に陥る。本症例において、夜間や横になった姿勢で痛みが強くなっていた点は、この自律神経調整機能の低下を反映したものと考えられる。
また、骨盤部の不安定性は、背骨全体のバランスに影響を及ぼしやすく、その代償として頸部や体幹の筋緊張が高まりやすい。こうした状態が長期間続くことで、神経に対する負荷が蓄積し、結果として腰部から臀部にかけての痛みとして表出していた可能性が高い。
アジャストメントによって骨盤部および上部頸椎にかかっていた神経への負担が段階的に軽減されることで、副交感神経が働きやすい環境が整い、過剰に高まっていた交感神経の活動が徐々に抑制されていった。その結果、筋緊張や循環状態が改善し、痛みの出方や睡眠状態にも変化が現れたと考えられる。
症状の変化が一時的ではなく、段階的に安定していった経過は、神経機能そのものが回復していく生理的プロセスを反映したものであり、局所的な対処ではなく、神経機能に着目したアプローチが重要であったことを示している。
本症例は、右腰から右臀部にかけての痛みが、自律神経機能の乱れ、とりわけ骨盤部および上部頸椎に存在していたサブラクセーション(根本原因)による神経機能低下を背景として出現していたことを示す症例である。神経機能の安定を図ることで、症状が全身的に落ち着いていった点は、痛みの本質を捉えるうえで重要な示唆を与えるものである。


執筆者前田カイロプラクティック藤沢院前田 一真
1982年、神奈川県生まれ。シオカワスクール在学中から塩川カイロプラクティックにて内弟子として学ぶ。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。2023年に前田カイロプラクティック藤沢院を開院。一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくため、カイロプラクターとして尽力している。またシオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。