

両腕の張り感や頭痛も落ち着いた
仕事柄、月の半分ほどは移動を伴う生活を送っており、日常的に身体への負担がかかりやすい環境にある。健康意識は高く、週に1回は筋力トレーニングとストレッチを行っているものの、もともと両前腕に張りを感じやすい状態が続いていた。
今年に入ってから仕事が一段と多忙になり、生活リズムが乱れがちとなった。それに伴い睡眠の質が著しく低下し、朝まで熟睡できたと感じる日がほとんどなくなった。寝つきが悪いだけでなく夜間に目が覚めることも多く、慢性的な睡眠不足の状態が続いていた。
約1か月前から右側の首に違和感を覚えるようになり、次第に痛みとして自覚するようになった。特に2週間ほど前から症状がはっきりし、寝ている状態から起き上がる際には注意を要するほどであった。一方で、首や体を動かしているうちに症状が和らぐ感覚があり、日中よりも朝起床時に最も強いこわばりと痛みを感じるという特徴があった。このような首の症状は今回が初めてであり、本人にとって大きな不安要素となっていた。
姿勢については、以前から自覚的に良くないと感じており、デスクワークや移動が重なる多忙な生活の中で、無意識のうちに右側に偏った姿勢を取り続けていることが多かった。特に朝は右側の首や肩周囲が固まったように感じ、動き始めるまでに時間を要する状態が続いていた。
また、歯科受診時には歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことがあり、就寝中も無意識に顎や首周囲に力が入っている可能性が示唆されていた。20代の頃には頭痛に悩まされていた時期もあり、その対策として枕をいくつも変えて試した経験もあるが、根本的な改善には至らなかった。
首の痛みだけでなく、睡眠の質の低下、姿勢の乱れ、過去から続く身体の緊張状態が重なり、「このまま放置すると再発や慢性化につながるのではないか」という不安を抱くようになった。以前、カイロプラクティックに通院していた時期があり、その際には体調が良好であったことを思い出し、改めて身体を整える必要性を感じた。
再発予防と今後の健康管理を目的としてインターネットで情報を検索した結果、当院を知り来院に至った。
下部頸椎部にスポンジ状の浮腫
下部頸椎部の可動制限
左仙腸関節の可動制限
初診時の状態では、左仙腸関節上部にくぼんだ浮腫、左腰部起立筋に過緊張、下部頸椎周囲にスポンジ状の浮腫、左胸鎖乳突筋の過緊張が確認された。体表温度検査では、仙椎2番と下部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また左仙腸関節と頸椎7番に可動制限が認められた。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD3レベルで、頸の椎間板の段階は慢性的なD4レベルが確認された。
初期集中期では慢性度を考慮して、週2回のケアから始めた。
3週目(4回目のアジャストメント)には、前腕の張りはまだあるが右頸の痛みと朝のこわばりが軽減してきた。睡眠の質はまだ安定しない。左腰部起立筋の過緊張が軽減し左仙腸関節上部の浮腫が減少してきた。
5週目(8回目のアジャストメント)には、右頸の痛みは落ち着いて伸展しても違和感が落ち着いてきた。前腕の張りも気にならなくなり睡眠もしっかりとれるようになってきた。左胸鎖乳突筋の過緊張が軽減し下部頸椎周囲の浮腫が減少してきた。左仙腸関節は可動してきたため仙椎2番に移行した。
9週目(11回目のアジャストメント)には、出張が続いても首の痛みはなく身体の緊張状態や睡眠も気にならなくなってきたので、日常生活も不安なくおくれているとのこと。
現在も定期的なカイロプラクティックケアを希望しており、メンテナンスをしていくこととした。
本症例は、土台理論に基づき、左右差が顕著であった左仙腸関節の機能不全と、下部頸椎の可動性減少および不安定性に対する保護的な筋緊張に着目して経過を追ったものである。神経伝達の乱れが局所のみならず自律神経系にも影響し、その結果として睡眠の質の低下を含む全身的な不調につながっていた可能性が考えられた。
初診時、左仙腸関節上部にはくぼんだ浮腫が触知され、左腰部起立筋には明らかな過緊張がみられた。さらに下部頸椎周囲にはスポンジ状の浮腫が確認され、左胸鎖乳突筋も過緊張状態にあった。体表温度検査では、仙椎2番および下部頸椎において左右差が明確に認められ、神経機能のアンバランスが示唆された。また、左仙腸関節と頸椎7番には可動制限が存在していた。レントゲン評価では、腰椎椎間板は慢性的なD3レベル、頸椎椎間板は慢性的なD4レベルであり、長期的な負担の蓄積がうかがえる状態であった。
慢性度を考慮し、神経系が安定するための時間を確保する目的で継続的なケアを開始した。経過とともに、頸部痛や朝のこわばりは徐々に軽減し、左腰部起立筋の過緊張は緩和、左仙腸関節上部の浮腫も減少していった。これは、可動性の回復とともに神経伝達が整い始めた過程を反映していると考えられる。当初は大きな変化がみられなかった睡眠も、頸椎周囲の浮腫や左胸鎖乳突筋の緊張が軽減していくにつれて安定し、深く眠れる感覚が得られるようになった。
さらに経過が進むと、出張などの身体的負荷がかかる状況下でも頸部痛や全身の過度な緊張は再発せず、睡眠の質も維持されるようになった。これは全体の神経伝達が正常化していく中で自律神経のバランスが安定し、その結果として下部頸椎の不安定性を補うために生じていた保護的な過緊張が不要となったと考えられる。
本症例は、左仙腸関節という土台から神経機能が整うことで全身の調整力が高まり、その結果として下部頸椎の安定化がもたらされ、自律神経の安定および睡眠の改善へと波及した経過を示した一例である。


執筆者塩川カイロプラクティック金城 寿生
1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティックに入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。