原因不明の下腹部痛が薬に頼らず解消された!
2年前から原因不明の左下腹部痛に苦しんできた。とくに何をしているわけではなく、急に鋭い痛みに襲われた。姿勢も関係ないし、気圧や気温も関係ないし、時間帯は朝が特に痛みが強くなるが午後になっても鋭い痛みは続いた。
病院ではMRI、レントゲン、エコー検査、大腸内視鏡検査、血液検査、尿検査とできる限りの検査を行ったが、どの検査も異常なしと診断された。鋭い痛みがあって夜も眠れないと伝えると、整形外科では痛み止め、内科では睡眠薬を処方された。
別の病院でセカンドオピニオンを受けたが、どの検査も異常なしと言われた。骨や内臓に異常がないなら脳の問題かと思い、脳神経外科を受診したが脳にも異常なしと言われた。ホットフラッシュのような更年期障害も出ていたため、婦人科を受診したときに下腹部の痛みも相談したが、異常がないなら様子を見ましょうと言われるだけだった。
気づけば痛み止め2種類、漢方2種類、睡眠薬と薬を飲む量が自分でも多いなと思ったが、どれだけ痛み止めを飲んでも左下腹部の鋭い痛みが強くなってくるので、薬の量がどんどん増えていった。
思い当たることは左下腹部の痛みが出る3か月くらい前に、乳がんの手術でリンパ節切除をしたことがあったが、手術した病院へ行ってもそれで下腹部に鋭い痛みが出ることはあり得ないと言われた。
5年くらい前に人生で初めてぎっくり腰をやった。それからしばらく腰痛が続いたが、左下腹部の鋭い痛みが出てからは、腰痛は感じなくなった。代わりに左脚全体に痺れが出ていたが、下腹部の痛みでそれどころではなかった。
基本的に痛みが無くなることはなく、痛み止めを飲んでも激しい痛みが出ることの方が多かった。下腹部が痛くて眠れないだけなので、睡眠薬を飲んでも痛くて眠れない日々が続き、仕事にも支障が出始めた。
仕事は週の半分はテレワークだったが、左下腹部の鋭い痛みは日に日に強くなっているように感じ、出社するのも大変な日が増えてきたので完全テレワークに変えてもらった。このままだと仕事を辞めることになってしまうと不安に思っていると、職場の同僚から電話が掛かってきて、「そんなに辛い症状だと思わなかった。ここの先生凄いから一度行ってみて!」とカイロプラクティック院を強く勧められた。
これまで病院以外は一度も行ったことがなかったが、職場の同僚がわざわざ電話を掛けてきてまで紹介してくれるということは凄い先生なのかなと思い、紹介という形で当院に来院された。
左仙腸関節の可動域制限
腰部起立筋の過緊張
左上後腸骨棘上端の強い浮腫感
初診時の状態では、左の仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、骨盤部と上部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また左上後腸骨棘上端と第一頸椎左横突起に強い浮腫が確認され、腰部起立筋と頚部胸鎖乳突筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD3レベルで重度の骨盤の傾きや過前弯で反り腰が確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD6レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっていた。
初期集中期の段階では週3回のケアを提示したが、仕事の関係で週1回のケアから開始した。
4週目(5回目のアジャストメント)には、寝起きからあった激しい左下腹部痛が緩和してきた。左脚全体が重だるく感じるようになった。
7週目(8回目のアジャストメント)には、左脚の痺れが軽くなり、腰痛をハッキリと感じるようになった。左下腹部の痛みはさらに緩和して、午前中はそれほど感じなくなった。ただし仕事で座っていると午後になるにつれて左下腹部痛が増した。
12週目(12回目のアジャストメント)には、左下腹部の鋭い痛みはほとんど感じなくなり、腰痛も明らかに緩和してきた。この段階で、左脚に出ていた痺れはまったく感じなくなった。
16週目(15回目のアジャストメント)には、顔のほてりがかなり楽に感じるようになり、夜は睡眠薬無しでも眠れるようになった。顔のほてりが引いてくると同時に手足など末端の冷えもそれほど気にならなくなった。
現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。
今回の原因不明の左下腹部痛は、左の仙腸関節の可動域制限が原因であったと考えられる。慢性的にあった腰痛、左脚の痺れの問題も合わせると、骨盤部の乱れによって腰部の神経には長期間に渡って負荷が掛っていたのだろう。
左下腹部痛は、腰痛からの放散痛であった可能性もある。長期間に渡っての痛み止めの服用は、人間の痛みの感覚を麻痺させてしまう要因にもなる。人間の痛みの感覚は、「正常→痛み→痺れ→麻痺」の順番で進行してしまう。
今回のケースでは、腰部の感覚は麻痺してしまい、左脚へ伸びる神経は痺れを感じてしまうほど進行し、放散痛となって左下腹部に鋭い痛みを出していたと考えられる。特に鋭い痛みの場合は、副交感神経の問題であるケースが多くみられる。
検査では、骨盤部と上部頸椎という、どちらも副交感神経支配の部位に強い反応が見られた。副交感神経にサブラクセーション(根本原因)があることで、交感神経が過剰に働いてしまい、自律神経のバランスも乱していたのだろう。
ホットフラッシュや末端冷え性、不眠症やイライラなどの更年期障害と思われる症状は、自律神経の乱れが原因であったと考えられる。更年期と言われる年代になると卵巣の機能は誰しも低下してくる。
閉経前には女性ホルモンの分泌量は著しく低下して、エストロゲンは40%、プロゲステロンは0%となるが、このとき脳が卵巣の状態を把握できていないと更年期障害のような症状が出やすくなってしまう。
女性ホルモンの分泌量が低下すると、脳は卵巣に対して「女性ホルモンを出しなさい」という命令を送る。しかし、役割を終えた卵巣は脳からの命令に応えることができない。このときに脳と卵巣を繋ぐ神経の流れが正常であれば、脳はその時点で卵巣へ命令を送るのをやめる。
更年期といわれる年代になっても更年期障害が出ない人というのは、脳と卵巣を繋ぐ神経の流れが正常であると考えられる。しかし、脳と卵巣を繋ぐ神経の流れに異常があると、脳は卵巣の情報を正しく受け取れなくなる。すると脳は混乱して「なぜ女性ホルモンを分泌しないのか?」とさらに命令を送り続けてしまう。
この命令のシグナルがどこを通るかというと交感神経である。この過剰な命令が交感神経を刺激し続けるため、次第に自律神経のバランスを乱してしまい、結果としてホットフラッシュなどのいわゆる更年期障害を引き起こしてしまう要因となる。
末端冷え性などは、まさに交感神経が過剰になっている人の特徴となる。交感神経の作用として末梢の血管を閉じる役割があるが、その状態が長期間続くことで末梢の血管が閉じたままとなり末端冷え性を引き起こしてしまう。
アジャストメントによりサブラクセーション(根本原因)が取り除かれ、自律神経のバランスが整った結果、原因不明の左下腹部痛以外にも、更年期障害のようなさまざまな症状の改善にも繋がったと考えられる。あらためて神経の流れを整えて体の情報を脳へ届けることの重要性が確認できる症例である。
執筆者前田カイロプラクティック藤沢院前田 一真
1982年、神奈川県生まれ。シオカワスクール在学中から塩川カイロプラクティック治療室にて内弟子として学ぶ。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。2023年に前田カイロプラクティック藤沢院を開院。一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくため、カイロプラクターとして尽力している。またシオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。