

毎日何のストレスもなく運動できています!
振り返ると、違和感の始まりは約10年前にさかのぼる。
父親からゴルフのスイングを教わり、クッションに向かってクラブを振る練習をしていたときのことだった。振り抜いた瞬間首の付け根に「ビキッ」と鋭い衝撃が走った。その感覚は今でもはっきり覚えているという。それ以来、首の付け根にどこか引っかかるような違和感が残るようになった。
当初は強い痛みではなかった。下を向いたときや何気ない動作の中で時折気になる程度で「そのうち落ち着くだろう」と深く考えずに過ごしていた。しかし完全に消えることはなく、違和感は静かに残り続けていた。
転機となったのは今年の春だった。
それまで首に限局していた違和感が次第に強まり、左の肩甲骨と背骨の間に鋭い痛みが出現。さらに背中全体へと広がり身体に力が入りにくい感覚へと変わっていった。左肩から肘、そして親指・人差し指にかけてうっすらとしたしびれも現れ、これまでとは明らかに質の違う状態になっていた。
整形外科では「年齢的な変化」「大きな異常はない」と説明を受け、湿布や牽引治療を勧められた。しかし症状に大きな変化はなく「この痛みと付き合っていくしかない」という言葉にどこか割り切れない思いが残った。
その後整骨院に通い週2回の鍼治療や筋肉へのアプローチを受けたことで、約1か月ほどで手のしびれは落ち着いた。だが首の付け根に残る引っかかりだけは消えなかった。「楽にはなったが根本は変わっていない」——そんな感覚が続いていた。
さらにクロスフィットでのトレーニングが追い打ちをかけた。ダンベルを持ってジャンピングスクワットを行った翌日、痛みは一気に増悪。それ以降激しい運動は控えざるを得なくなった。思いきり身体を動かせないことが、思っていた以上にストレスになっていった。
学生時代はアメリカンフットボール部に所属し左鎖骨骨折の既往はあるものの、当時は首や背中に問題はなかった。仕事を引退しこれからの時間をどう過ごすかを考え始めた今「このまま違和感を抱えたまま年を重ねていくのだろうか」という思いが現実味を帯びてきた。
これからもスポーツを楽しみたい。動ける身体でいたい。
そのために一度身体を根本から見直したいと考え、情報を集める中でカイロプラクティックを知り改善の可能性を求めて来院された。
左仙骨翼の浮腫
下部頚椎周囲の浮腫
左肩甲骨内側の膨隆
頚椎にはD4レベルの椎間板変性が確認され、症状の経過や発症からの年数を踏まえても慢性度は高い状態であった。そのため本来は週2回ペースでのケアを提案したが、仕事や生活リズムの都合もありまずは週1回の来院からスタートすることとなった。
5週目(2回目のアジャストメント)には、これまで常に感じていた左肩周囲の熱感が明らかに引いてきたことを本人が自覚するようになった。また、この頃から左肩〜腕にかけてうっすらと出ていたしびれも日常生活ではほとんど気にならないレベルまで落ち着いてきた。
6週目(3回目のアジャストメント)では、首の動きに大きな変化を感じるようになった。これまで怖さや引っかかりがあり避けていた頚部伸展動作が痛みなく行えるようになり「首が自然に後ろへ倒れる感覚が久しぶりに戻ってきた」と話されていたのが印象的であった。
8週目(5回目のアジャストメント)には、背中から肩甲骨周囲にかけて感じていた痛みや違和感はほぼ消失し、日常生活の中で症状を意識する場面はほとんどなくなった。以前は些細な動作で首や背中に緊張が走っていたが、動作全体がスムーズになり身体に無意識に力が入ってしまう感覚も軽減している。
現在では、首・背中・腰に関する痛みやしびれといった主訴は大きく改善し、症状に振り回されることなく日常生活を送れている状態である。今後もスポーツやトレーニングを安心して楽しめる身体を維持したいという本人の希望もあり、再発予防とコンディション維持を目的として継続的なケアを行っている。
今回の手のしびれを伴う首から背中にかけての痛みは、下部頚椎における神経機能低下を背景として出現していた症状であったと考えられる。
症状は10年前、首の付け根の違和感から始まっている。当初は日常生活に大きな支障はなかったものの、違和感は消えきらず今年に入り肩甲骨周囲や背部、さらに上肢へと広がっていった。この経過は神経への負荷が段階的に進行していたことを示している。
神経症状は一般に「正常 → 痛み → しびれ → 麻痺」という順序で変化していく。痛みは比較的初期のサインであり、しびれは神経伝達機能が低下し始めている状態を意味する。本症例では左肩から肘、親指・人差し指にかけてのしびれが出現しており、下部頚椎レベルでの機能低下が疑われた。
レントゲンでは頚椎前弯カーブの消失とC5/6レベルのD4椎間板変性が確認された事から短期間で生じた変化ではなく、長年にわたり負荷が蓄積していた慢性的な状態といえる。さらに腰椎L4/5にも椎間板変性が認められ、問題は頚部単独ではなく脊柱全体のバランスの中で生じていた可能性が高い。
骨盤部の安定性が低下すると衝撃吸収機能が十分に働かず、その負荷は脊柱を介して上位へ伝わる。胸椎の可動性低下も加わり、最終的に頚椎にストレスが集中していたと考えられる。
クロスフィットでの高負荷トレーニングは直接的な原因というより、余力を失っていた脊柱に追加の刺激が加わった出来事であった。
アジャストメントにより上部・下部頚椎、胸椎、骨盤部の機能が整うにつれ、まず熱感やしびれといった感覚症状が変化し、その後に可動域や動作時の違和感が改善していった。この経過は、神経機能が段階的に安定していく過程を反映している。
本症例は画像上の変性そのものが問題の本質ではなく、長期間にわたり積み重なった神経機能のアンバランスが症状の背景にあったことを示している。違和感の段階で適切に身体を評価することの重要性、そして脊柱全体の機能を整える意義を改めて示した症例である。


執筆者塩川カイロプラクティック大木 信之
千葉県成田市出身。初めてのカイロプラクティックを受診後カイロプラクティックの可能性を直感し、長年従事した仕事を辞め4年制の東京カレッジオブカイロプラクティックに入学。様々なテクニックを学ぶ中で最も本質的なガンステッドカイロプラクティックを追求していくことを決意する。卒業後名古屋市内のガンステッドカイロプラクティック専門院を経て塩川カイロプラクティックに勤務。