

仕事のパフォーマンスも上がった
システム関連の会社を経営していて、出張や打ち合わせなども多く、多忙な日々を送っているが、その忙しさを苦にすることなく、仕事そのものにやりがいと楽しさを感じながら精力的に取り組んでいた。
しかし、約1年前から徐々に自覚する身体の変化が現れ始めた。具体的には、姿勢が丸くなってきたように感じるようになり、背中から首にかけて固まったような感覚が続くようになった。当初は長時間のデスクワークや移動による一時的な疲労だと考え、深刻には捉えていなかったが、時間の経過とともに肩こりの頻度が増し、呼吸が浅くなっているような感覚も自覚するようになった。
さらに、睡眠の質にも変化が現れ、眠りが浅く夜中に何度も目が覚めるようになった。その影響もあってか、日中の集中力が低下し、仕事中にぼんやりすることが増え、以前に比べてパフォーマンスが落ちてきていることを実感するようになった。これまでのように高い集中力とエネルギーで仕事に臨めないことに危機感を抱き、「このままではいけない」と強く感じるようになった。
体調を取り戻すために、これまでさまざまな方法を試してきた。市販の健康器具を購入して姿勢を矯正しようとしたり、ストレッチや体幹トレーニングを取り入れたりもした。しかし、どれも一時的な効果にとどまり、根本的な改善にはつながらなかった。時間の経過とともに、身体だけでなく気力まで低下していくような感覚に陥り、「本当に自分の身体は回復するのだろうか」と不安を感じるようになっていた。
そんな中、インターネットで体の不調や姿勢に関する情報を調べていた際、偶然当院の存在を知ることとなった。動画やホームページの内容を通して、これまでの一般的な対症療法とは異なり、神経の働きを根本から整えるという理念に強く共感を覚え、「ここなら自分の体を本当の意味で回復させることができるのではないか」と直感した。
長年、自らの体を後回しにして仕事に打ち込んできた反省と、「これからの人生をより健康に、より良いパフォーマンスで過ごしたい」という思いから、来院に至った。
左環椎横突起周囲の浮腫
左仙腸関節の可動制限
左仙腸関節を中心とした浮腫
初診時の状態では、環椎左横突起周囲と仙骨を中心とした浮腫が確認された。体表温度検査では、骨盤部と下部・上部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また左仙腸関節、頸椎1番に可動制限が認められ、左腰部脊柱起立筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD4レベルで、首の前弯カーブは減少し、頸の椎間板の段階は慢性的なD3レベルが確認された。
初期集中期では会社を経営しているため、都合上週1回のケアから始めた。
3週目(3回目のアジャストメント)には、肩こりも軽減し睡眠時に起きる回数も減ってきた。まだ日中にボーっとする時はある。仙骨に広がった浮腫も左仙腸関節周囲い限局してきた。
10週目(7回目のアジャストメント)には、背中や肩こりは気にならなくなり、睡眠も起きることなくしっかりと寝れているとのこと。仕事の集中力も上がってきたと喜んでいた。体表温度誤差も軽減してきたので、経過を2週間後とした。
15週目(10回目のアジャストメント)には、体調も落ちつき出張が続いても寝ればしっかり回復するようになった。お子さんとも休日に気兼ねなく公園にも行けるようになったと喜んでいた。
現在も定期的なカイロプラクティックケアを希望しており、2週に1回でメンテナンスをしていくこととした。
今回の症例では、不眠症の背景に 副交感神経サブラクセーション が強く関与していたと考えられる。初診時には、環椎左横突起周囲および仙骨を中心とした明らかな浮腫が確認され、体表温度検査においても骨盤部から下部・上部頸椎にかけて顕著な左右差がみられた。さらに、左仙腸関節と第一頸椎には明らかな可動域制限が確認され、左腰部脊柱起立筋の過緊張も加わっていたことから、副交感神経支配領域(後頭骨〜C5・仙骨)の機能低下が疑われた。
レントゲン評価でも、腰椎椎間板は慢性的なD4レベル、頸椎の前弯カーブも減少し、頸椎椎間板はD3レベルと慢性期の変性が進行している状態であった。これらの所見は、長期間にわたり神経への負荷が蓄積していたことを示し、特に副交感神経の働きが低下することで交感神経が過剰に働き続けていた可能性が高い。交感神経の過剰活動は、夜間になっても身体が興奮状態のままとなるため、寝つきの悪さや中途覚醒につながり、慢性的な不眠の原因となる。
ケア開始後、環椎と仙骨のサブラクセーションが解放され始めると、肩こりの軽減とともに睡眠中に目覚める回数が減り、夜間の回復力が戻りつつある変化が現れた。仙骨周囲に広がっていた浮腫も徐々に限局化し、神経伝達が改善してきたことが推測された。副交感神経の働きが正常化していくことで、夜間に体がリラックスモードへ切り替わりやすくなり、深い眠りに入れる状態が整っていったと考えられる。
その後の経過では、背中や肩こりといった筋緊張の症状がほとんど気にならなくなり、睡眠も途中で目覚めることなくしっかりと取れるようになった。これは、副交感神経サブラクセーションの解消により、コルチゾールの過剰分泌が抑えられ、メラトニン分泌が正常化した結果と考えられる。また、日中の集中力が向上したという訴えは、十分な睡眠によって脳のパフォーマンスが回復していることを示す良い指標である。
さらに、身体の回復力が整ったことで、仕事の出張が続いても睡眠によってしっかりと疲労回復ができるようになり、休日にはお子さんと公園に出かける余裕が生まれるなど、生活全体の質が向上していた。これは、自律神経のバランスが整い、身体が本来持つ適応力・治癒力が回復した何よりの証拠である。
今回の症例は、症状の中心に筋肉や関節の問題が存在するように見えながら、実際には 副交感神経支配領域のサブラクセーションが根本原因となり、不眠や慢性疲労を引き起こしていた典型例といえる。環椎と仙骨という、副交感神経機能に最も深く関与する部位の神経伝達が正常化したことで、睡眠の質が劇的に改善し、体力や気力が自然に回復していった。
現在も定期的にケアを継続し、2週に1回のメンテナンスを行うことで、再び自律神経が乱れないよう良い状態を維持している。今回のケースは、サブラクセーションを正確に分析し、神経系の働きを最優先にケアを進めるカイロプラクティックアプローチの重要性をあらためて示す症例である。


執筆者塩川カイロプラクティック金城 寿生
1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティックに入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。