
膝を上げて下ろすと股関節の奥がコキコキ鳴る
2月の末、右腰をギックリ腰になり、その痛みがようやく落ち着いたころ、右股関節に違和感を覚えるようになった。特に明確なきっかけはなく、10月頃から徐々に痛みが現れ始めた。最初は軽い違和感程度だったが、次第にストレッチを行うと引っかかるような感覚やロックされるような感覚が強くなり、思うように足を開くことができなくなってきた。さらに、膝を上げて下ろす際に股関節の奥でコキコキと音が鳴ることが増え、違和感だけでなく、不安も感じるようになった。
日常生活にも支障が出始め、特に子どもの送り迎えや買い出しの際に自転車にまたがろうとすると、右股関節に鋭い痛みを覚えるようになった。最初は我慢できる程度だったものの、次第に痛みが強まり、自転車の乗り降りが億劫になってきた。歩行や家事には大きな支障はないものの、長時間動いた後には股関節周辺の重だるさが増し、次の日に疲労感が残ることが多くなった。
このままでは日常生活に支障をきたす可能性があると感じ、早めに原因を明らかにし、適切な治療を受けるためにインターネットで検索したところ、Youtubで当院を知り来院に至る。
右股関節開排制限
右仙腸関節の可動制限
右仙腸関節周囲にスポンジ状の浮腫
初診時の状態では、右の仙腸関節には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、骨盤部と上部・下部頸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また右仙腸関節と第一頸椎右横突起・下部頸椎部に強い浮腫が確認され、腰部起立筋と頚部胸鎖乳突筋は過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階は慢性的なD3レベル、首の椎間板の段階も慢性的なD3レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネックとなっていた。
主訴の股関節はレントゲン上、左右差や関節裂隙狭小化や変形などは顕著ではなかった。
初期集中期の段階は、家事とお子さんの関係もあり週1回も難しく、長くても2週以内のケアから開始した。
4週目(4回目のアジャストメント)には、右股関節前面の鈍痛や詰まる感じは残存も外旋可動域が拡大してきた。
8週目(6回目のアジャストメント)には、さらに右股関節最大外旋ができるようになった。最大外旋時に前面に突っ張り感残存。自転車は問題なくまたがれるようになった。
16週目(9回目のアジャストメント)には、右股関節もコキコキ鳴らなくなり、足を広げても問題ない。パトリック(-)。長時間歩いても重ダルさが出なくなった。
23週目(11回目のアジャストメント)には、その後も安定してストレッチも問題なく出来ているとのこと。身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けることとした。
ぎっくり腰を経験していることから、日常生活において腰部や骨盤部の神経に強い負荷が掛っていたものと考えられる。
股関節の問題のほとんどのケースでは、股関節自体に問題があるわけではなく、 股関節に負担をかけている他の場所に問題が存在している。 確かに遺伝的な問題で股関節の形状が生まれつき変形している場合もあるが、 しかし、そのような場合でも成長とともに体は適応し、股関節周辺の筋肉や靭帯は強化されていく。
今回のケースでは、股関節の変形なども見られなかったため、腰部・骨盤部の神経の影響が考えられた。
まず股関節の問題は、腸骨サブラクセーション(AS/ASIN腸骨)のアプローチから考えられる。 また腰椎2番から腰椎5番の股関節周辺の神経支配のサブラクセーションのアプローチも考えられる。(前方部の寛骨臼の神経支配:L2~L3/後方部の神経支配:L4~L5)
PIEX腸骨による変形性股関節症は稀で、臨床では仙骨軸転変位やAS・ASIN腸骨変位の方が多く見られる。
今回のケースも仙骨軸転が股関節と同側に見られ、仙腸関節のアプローチをしていった結果、股関節痛と関節機能が回復した。
神経を介して脳と体を繋ぐ神経のサイクルが正常であれば、損傷をしても自然に治癒することができるようにプログラムされている。 本来、体には偉大な力が備わっていて、生まれた時から健康になるすべを知っている。 股関節痛や変形の進行が一向に改善しない理由は、股関節に供給している神経に問題があり、損傷部分の修復が行われていない状態になっているだけなのだ。そのことを改めて実感した症例である。
執筆者塩川カイロプラクティック治療室金城 寿生
1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティック治療室に入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。