4か月前から左手の薬指と小指に痺れを感じるようになった。手をグーパーさせると手全体にこわばりも感じたため、もしかしたら脳に異常があるのかもしれないと怖くなり、すぐに病院で精密検査を受けた。
MRIやCT検査を受けたが、幸いにも脳には異常がなかった。手の痺れやこわばりは1か月経っても続き、病院でさまざまな科を受診した。整形外科で首のレントゲンも撮ったが、椎間板が薄くなっているものの年齢なりだと言われた。
血液検査やエコー検査などできる検査はすべて受けたが、もしかすると関節リウマチの疑いがあるかもしれないと診断された。近親者に関節リウマチはいるかと尋ねられ、特に思い当たるような人はいないと伝えると、まずは様子をみましょうと言われた。
手の痺れを感じ始めてから2ヶ月が経つ頃、全身にアトピー性皮膚炎が広がってしまった。子供の頃から肌荒れしやすい方ではあったが、全身にアトピーが出たことは一度もなかったため、すぐに皮膚科を受診した。
皮膚科では、ステロイド軟膏と飲み薬を処方された。薬を服用すると肌の赤みや痒みが引いたが、薬をやめるとすぐに赤みが出てきて夜になると痒みで眠れない日々が続いた。長期間薬を服用するのは嫌だなと思っていたが、夜の痒みだけは我慢ができなくて気づけば毎日のようにステロイド軟膏を塗っていた。
社会人になってから、ずっとデスクワークだったため腰痛や肩こりを感じていた。腰痛は一度整形外科を受診したときに、腰の5番が分離していてすべり症だと診断されたことがあった。
中学生の頃から30年以上、全身の冷えや花粉症に悩まされ、最近は気付けば両肩が上がりにくいと感じるようになっていた。子供の頃から体は弱い方だったが、急激に体調が悪化していく中で病院の検査でも異常なしと言われ、これが更年期なのかと諦めようとしたところ、知人からカイロプラクティックを紹介された。
これまで整体のようなところは通ったことがなく、マッサージも数える程度しか受けたことがなかったため迷ったが、知人があまりにも熱心に勧めてきたため一度受けてみようと決意して当院に来院された。
背部全体の過緊張
隆椎周辺の強い浮腫感と熱感
首肩周辺の過緊張
初診時の状態では、下部頸椎と下部胸椎には明らかな可動域制限があった。体表温度検査では、下部頸椎と下部胸椎に明らかに左右の温度の誤差が確認された。また隆椎周辺と下部腰椎から正中仙骨稜には強い浮腫が確認され、首肩周辺と背部全体が過緊張の状態であった。
レントゲン評価では、腰の椎間板の段階はD6レベルと慢性的で椎骨の変性も確認された。また、整形外科での診断通り腰椎5番は分離すべり症が確認された。首の椎間板の段階は慢性的なD6レベルが確認され、首の前弯カーブ(前カーブ)は消失してストレートネック)となり、椎骨の変性が激しい状態だった。
初期集中期の段階では週3回のケアを提示したが、仕事の関係で週1回のケアから開始した。
4週目(4回目のアジャストメント)には、左手に出ていた痺れが軽減して、左肩から左腕が重だるいと感じるようになった。
9週目(8回目のアジャストメント)には、左手に出ていた痺れはほとんど感じなくなり、手のこわばりもなくなった。また、肩のこわばりも減ってきて肩こりも楽に感じるようになり、体全体が温かいと感じるようになった。
19週目(12回目のアジャストメント)には、薬を塗らなくても痒みが出なくなり、全身に広がっていた赤みも引いてきた。両肩が上がりにくいと感じていたが、可動域も明らかに変化が出てきて高いところの物も難なく取れるようになった。
32週目(15回目のアジャストメント)には、薬は完全に手放すことができ、全身に広がっていたアトピーは、見た目はほとんど分からなくなるほど引いた。また、この頃にはちょうど花粉の時期と重なったが、花粉症の症状が明らかに落ち着いていた。
現在は、ほとんどの症状が落ち着いたが、身体のメンテナンスとして定期的なカイロプラクティックケアを続けている。
今回のアトピー性皮膚炎の原因は、下部頸椎の負担から甲状腺機能が低下することで体全体の代謝が低下して、体に溜まった毒素を一生懸命体外へ出そうとした結果だったと考えられる。
検査では下部頸椎以外に、下部胸椎にも強い反応がみられた。下部胸椎は副腎とも密接な関係があり、副腎はさまざまなアレルギーと関係している。甲状腺や副腎と繋がる神経に負担が掛かったことで、全体的なホルモンバランス異常を起こしていたのだろう。
花粉症などはまさにその典型例で、自己免疫が過剰に働くことで体が花粉に対して過敏に反応した結果、目の痒みや鼻水などの花粉症が発症していたと考えられる。
左手の痺れやこわばりなども下部頸椎からの神経が関係していたと考えられる。人間の痛みの感覚は「正常→痛み→痺れ→麻痺」の順番で進行するが、回復過程では「麻痺→痺れ→痛み→正常」の順番で回復していく。また回復過程では患部が筋肉痛のような重だるさを感じることもあるが、今回のケースでは顕著にその過程を辿った。
肩こりなどは骨格が不安定になり神経に負担が掛かることで頭部の重さをささえられなくなった結果、首肩の筋肉を過緊張させて頭部の重さを支えていたと考えられる。また両肩の可動域制限も掛かっていたが、下部頸椎は両肩へ伸びる神経にも関与している。
全身の冷えにも下部頸椎から繋がる甲状腺は大きく関与している。甲状腺は人間の代謝を司る臓器であり、甲状腺機能低下は低体温を引き起こす要因にもなる。アトピー性皮膚炎や関節リウマチの疑いがあったことからも、甲状腺機能は大きく低下していたと考えられる。
長年、腰痛も患っていたが、整形外科で診断されていた通り、腰椎5番が分離すべり症を発症していた。このような場合は、腰椎へ直接アプローチせずに仙骨を使って腰仙関節へのアプローチを行う必要があるが、分離すべり症に対して効果的なアプローチを行うにはレントゲン評価というものも重要となってくる。
アトピー性皮膚炎、花粉症、関節リウマチの疑いなどホルモンバランス異常のような症状以外にも、肩こり、両肩の可動域制限、腰痛などの筋骨格系の症状も出ていたが、レントゲン評価や体表温度検査など科学的で客観的な検査法を駆使して問題となっている神経系を特定する検査力が必要不可欠となってくる
アジャストメントによりサブラクセーション(根本原因)が取り除かれたことで、ホルモンバランス異常も徐々に解消され、薬に頼ることなくアトピー性皮膚炎の改善に繋がったと考えられる。あらためて神経の流れを整えて体の情報を脳へ届けることの重要性が確認できる症例である。
執筆者前田カイロプラクティック藤沢院前田 一真
1982年、神奈川県生まれ。シオカワスクール在学中から塩川カイロプラクティック治療室にて内弟子として学ぶ。塩川満章D.C.と塩川雅士D.C.に師事し、副院長まで務める。2023年に前田カイロプラクティック藤沢院を開院。一人でも多くの人にカイロプラクティックの持つ無限の価値を知っていただくため、カイロプラクターとして尽力している。またシオカワスクールでは現役講師を務めており、後任の育成にも力を入れている。