
“ダンスが再開できそうで嬉しいです”
長年ダンスの講師として活動しており、ダンス歴は10年以上に及ぶが、昨年11月頃から体に異変が現れたという。具体的には、後頭部から首、肩甲骨にかけての強い痛みで、時にはめまいや吐き気、重だるさを伴うこともあったそうだ。
こうした症状は日によって波があり、特に疲れがたまったときや天候が崩れる前などに悪化しやすいという。CTやMRI検査も受けたが、明確な異常は見つからなかった。診断がつかない不調に対する不安を抱えながらも、なんとか症状を和らげようと鍼治療を受け始めたところ、少しずつ改善が見られているとのこと。ただし、完全には取りきれておらず、常に首や肩甲骨に違和感が残る状態が続いている。
不整脈の既往もあり、体への負担や精神的な緊張も重なっている様子だ。ダンス指導という仕事柄、身体が資本であり、本来であれば自由に動けるはずの首の不調が、活動の継続を難しくしている。現在はダンスの指導も休止中で、「早く元のように動けるようになりたい」という強い想いを抱えて来院された。
大好きなダンス、そしてスクールの仲間になかなか会えないもどかしさを抱えて生活している。
症状の背景には、長年にわたる体の使い方や姿勢、積み重なった疲労の蓄積があるのではないかとご本人も感じており、今後のためにも根本的な改善とコンディショニングを望んでいる。
左耳介上方変位
左の胸鎖乳突筋の過緊張
吐き気が頻繁に来る状態で初診当日もある
頚椎側面像において、C7の椎間板がすり減っていることが確認できるため、サブラクセーションが発生してから、かなりの時間が経過している。そのため、初期集中期として週に2回のケアを推奨するも、仕事の都合上でまずは週に1回とし、ケアをスタートした。
3週目(2回目のアジャストメント)では、来院までに不整脈の手術があったそうで来院が遅くなってしまった。初診後には、首の状態は安定した感覚があったとのことである。入院中は、枕がいつもと異なるため首の違和感は再燃したそう。左の胸鎖乳突筋の緊張は初診時よりも少し減少傾向にある。
4週目(3回目のアジャストメント)では、首の調子はかなり軽快で、吐き気などは起こっていない。胸鎖乳頭突筋の過緊張も減少傾向にある。
8週目(6回目のアジャストメント)では、全体的に調子が良く、めまい吐き気、頭痛等は再発していない。ブレイクもほとんど確認できないところまで来ている。
11週目(8回目のアジャストメント)では、骨盤の可動性も以前より出てきており、同時に第一頚椎の可動性および神経圧迫も減少傾向で体調の良さと重なる。
現在は1ヶ月に1回のメンテナンスを続けており、ダンス復帰に向けて日々練習に励んでいるそう。
この症例では、首の一番上にある骨(第一頚椎)や骨盤の動きが悪くなっていたことが、自律神経のバランスを乱し、特に「副交感神経」の働きが乱れる状態を引き起こしていたと考えられます。
副交感神経は体をリラックスさせる役割がありますが、それが正常に働かないと、吐き気やめまい、首まわりの強いこりといった不快な症状につながることがあります。
また、首の骨のすぐ近くには「延髄(えんずい)」という脳の一部があり、ここには「吐き気を感じるセンサー(嘔吐中枢)」が存在しています。特に第一・第二頚椎の神経圧迫や動きの悪さは、この延髄に間接的な影響を与えることがあり、吐き気やめまいの原因になることが知られています。
実際に、医療の分野でも首の骨のゆがみが延髄にストレスを与え、慢性的な吐き気や自律神経の乱れを引き起こすケースが報告されています。
今回の患者さんも、首の骨の動きが悪く、レントゲンでは首の下の方(C7)にも変性が見られ、長年にわたる首の不調があったことがうかがえます。
さらに、骨盤のゆがみも全身のバランスに大きく影響します。骨盤が安定することで背骨全体の動きが良くなり、自律神経にも良い変化が起きやすくなります。
カイロプラクティックのケアを通じて、これらの首や骨盤の神経圧迫を取り除いていった結果、過敏になっていた神経の働きが徐々に落ち着き、吐き気やめまいといった症状も軽くなっていきました。
また、患者さんは「天気が悪くなる前に体調が崩れやすい」と感じていましたが、これは気圧の変化によって自律神経が乱れやすくなるためです。体と神経のバランスが整うことで、このような気象の影響にも強くなり、日常生活が安定してきたのです。
このように、首や骨盤を整えることは、単なる姿勢の改善だけでなく、体の内側にある神経や脳の働きをサポートするという大きな意味があります。
そして何より、患者さん自身が「根本からよくなりたい」という強い意志を持ち、継続的にケアに取り組んだことが、回復に大きくつながったのだと思います。
執筆者塩川カイロプラクティック治療室関野 貴友
1999年、大阪府生まれ。19才より東海大学トレーナー専攻及び東京衛生専門学校のダブルスクールを行い、共に優等で卒業。鍼灸あん摩マッサージ指圧師を取得。のちに睡眠専門治療室NEOCHIを開業。2023年よりシオカワスクールのインストラクターを務め後進の育成にも力を入れている。