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これ以上良くならないと言われた膝痛

これ以上良くならないと言われた膝痛

70代女性
主訴
両膝痛、右肘痛、むくみ、足が攣る、浅い睡眠、仰向けで寝られない、夜間頻尿
来院に至った経緯

2週間ほど前から膝の調子が悪化し、痛みが強くなった。初めて膝に痛みを感じたのは約10年前で、特にきっかけや外傷の記憶はない。これまで整形外科で注射を受けながら痛みを抑えて生活していたが、症状が改善する感覚は得られず、医師からも「これ以上良くなることはない」と告げられたため、別の改善方法を探すことにした。

その後、他の接骨院に通院し電気治療などを受けたが、十分な説明や改善への意欲が感じられなかったので、納得できる治療を求めて新たな治療院を探し始めた。

畑仕事をしたいが、しゃがむと膝に痛みが出て作業が困難であり、最近は全く行けていない。買い物も痛みのため店内を十分に回れず、必要なものだけを簡単に済ませている状態である。座位では膝が楽になるが、長時間同じ姿勢を続けると動き出す際に痛みが出る。膝の受傷歴はない。仰向けで寝ることは腰が伸びずできないのでいつも横向きで寝ている。

右肘は曲げることができず、右手で右耳を触ることができない。髪を触るなどもやりづらいため、左手で顔や髪の手入れをしている。

40代の頃には血圧が180mmHgまで上昇し、鼻血や眼底出血の症状が出現したため、当初は血流改善薬を服用し、のちに高血圧の薬へ変更して継続している。

このまま膝の状態が悪化すると歩行が困難になり、買い物すらできなくなることへの不安を抱いている。趣味である土いじりや編み物、かご作りを今後もずっと不安なく続けられるようになりたいという前向きな気持ちで来院された。

初診の状態
  • 01

    左仙腸関節の可動制限

  • 02

    左PSIS株の窪んだ浮腫

  • 03

    第1頚椎の右側屈制限

経過と内容

初診では、左PSISの下側に窪んだ浮腫が確認できた。レントゲン評価ではL5椎間板のスペースがD6であるから、慢性的に腰部に負担がきていたので週3回のケアを提案したが、都合がつけるのが難しく週2回からスタートした。

2週目(3回目のアジャストメント)では、アジャストメント後にいくらか楽になっていると報告を受ける。アジャストメント後は痛みがほぼない。

9週目(16回目のアジャストメント)では、動き出しの膝の痛みは強いが、右膝の痛みは気にならないで畑仕事に行けることも出てきた。骨盤部の安定した可動性も認められ、週1回のアジャストメントに切り替えた。

11週目(18回目のアジャストメント)では、足首のむくみが劇的に変わっていることに気がついた。以前までは足が攣ることも多かったが、最近足が攣っていないとのことで、夜間頻尿も3回に減っていて、その後すぐに眠れるようになった。

畑仕事にも行けるようになってきたので目標の再設定をして、自由に歩けるようになりたいと希望を語られていた。

39週目(29回目のアジャストメント)では、冠婚葬祭が3回続いたが、膝の痛みもなく、出席することができた。以前は杖をついて歩いていたのでその姿を知っている人たちが驚いていたことが嬉しかった。来院当初は仰向けで寝ることができず、左横向きでした寝られなかったが今はどんな体勢でも寝られるようになった。

現在では、朝の畑仕事・ミシンで裁縫もできている。今日が一番体がいい日だと思って活動的に動いていけば意外とできるもんだと思っているとのこと。来院当初は膝の伸展も80°までで痛みが出ていたが、今は0°まで膝を伸ばすことができる。この状態を維持し、前向きに活動していけるように4週に1回のペースでカイロプラクティック・ケアを受けている。


考察

本症例は、およそ10年前から続く両膝痛に対し、整形外科での注射や他院での電気治療などの対症療法を継続してきたにもかかわらず、「これ以上良くならない」と告げられたケースである。

局所的な介入では十分な改善が得られなかった一方で、骨盤・仙腸関節および第1頚椎のサブラクセーションに着目し、アジャストメントを継続した結果、膝痛のみならず、むくみ・こむら返り・睡眠・夜間頻尿といった全身的な症状にも改善がみられた。

受傷のきっかけがないにもかかわらず膝痛を訴える人は少なくない。その場合、医療機関では加齢、筋力低下、肥満、過使用などが原因とされることが多い。しかし実際には、単一の要因ではなく、複数の外的要因が重なって痛みを生じていることも多く、その見直しが求められる。

では、同じような生活環境でも膝痛が出る人と出ない人がいるのはなぜか。この点を考えるとき、身体の内側に目を向けることが重要である。

本症例では、膝に明らかな受傷がなく、座位では比較的楽である一方、動き出しやしゃがみ動作で痛みが強く出ること、さらに骨盤部の所見を総合すると、膝関節そのものよりも、身体の土台である骨盤部に問題があると考えられる。

骨盤は左右の腸骨と中央の仙骨から構成される仙腸関節を中心に支えられている。この仙腸関節の動きに左右差が生じると、骨盤全体の安定性が失われ、脊柱全体のバランスにも影響を及ぼす。不安定な骨盤は上半身の重みを支えきれず、その代償として膝関節への負担が増大したと推察される。

レントゲン評価では、L4~L2椎間板スペースがD6であり、少なくとも15年以上の慢性的な負担がかかっていたことが示唆された。さらに、腰椎3番のすべり症がみられたことも、長期的な椎間板への圧負荷と腰部安定性の低下を示す所見である。

このような骨盤部や腰部の不安定性は神経伝達を阻害し、腰骨盤部から下肢へ向かう神経機能の低下を引き起こす。それにより膝のアライメントが乱れ、組織の修復力や回復力が十分に発揮されにくくなっていた可能性がある。

また、骨盤部のサブラクセーションは下肢の血液およびリンパ循環機能にも深く関係している。骨盤および上部頚椎は副交感神経の支配領域であるため、これらにサブラクセーション(神経伝達の阻害)が存在すると、交感神経優位の状態に傾きやすくなる。その結果、血管の収縮、血流の低下、リンパの滞りが生じやすくなる。

実際に本症例でも、下肢の循環効率の低下がみられ、足首のむくみやこむら返りといった症状を助長していたと考えられる。しかし、骨盤部の安定性が確立してきた11週目前後から、足首のむくみの劇的な減少、こむら返りの消失、夜間頻尿の回数減少(3回程度に減少)といった全身的な改善がみられた。これは、骨盤部の神経伝達が回復し、下肢の循環が整ったことで、身体本来の自然治癒力が十分に発揮される状態へと変化した結果と解釈できる。

上部頚椎のサブラクセーションは、睡眠の質や全身の緊張状態にも関与する。本症例でも、初診時には仰向けで寝られないほどの腰部緊張、浅い睡眠、夜間頻尿といった訴えがあったが、頚椎および骨盤へのアジャストメントを継続することで、どの体勢でも眠れるようになり、入眠および再入眠もスムーズになった。これらの変化は、上部頚椎と骨盤という身体の「上と下」の副交感神経領域において神経伝達が回復し、自律神経バランスが整ったことを示唆している。

経過を時系列でみると、初期には膝痛の強さに加え、「畑に行けない」「買い物を回りきれない」といった日常生活の制限が顕著であった。しかし、骨盤が安定してきた9~11週目頃からは右膝痛をあまり気にせず畑仕事ができるようになり、むくみ・こむら返り・睡眠・夜間頻尿なども明らかに改善している。

その後も定期的なケアを継続することで、冠婚葬祭が続く時期にも膝痛を感じることなく参列できるまでに回復し、来院当初は80°しか伸展できなかった膝が、最終的には0°まで伸ばせるようになった。

これらの結果は、単に膝関節局所への注射や電気治療では得られなかった「身体全体としての回復」であり、脊柱全体の神経伝達が改善されたことで、もともと患者自身が持っていた自然治癒力が発揮された結果と考えられる。

一方で、腰椎すべり症や椎間板変性、加齢といった構造的要因は残存しており、それらを完全に除去することはできない。したがって、症状が安定した現在も4週に1回のペースでカイロプラクティック・ケアを継続し、脳と神経の良好なコミュニケーションを維持することが、自然治癒力を引き出す身体づくりとQOL(生活の質)の維持に重要であると考えられる。

最後に、「これ以上良くならない」と説明された慢性膝痛であっても、膝そのものではなく骨盤部および上部頚椎のサブラクセーションを整え、神経の流れを回復させることが、痛みの軽減において重要であることを改めて強調したい。

そして、患者が「まだ良くなれる」という希望を持てるようになったことは、カイロプラクティック・ケアが「痛みを取る」こと以上に、患者自身の自然治癒力を信じる前向きな心を引き出したことを示している。

患者が本来持つ治る力はいくつになっても発揮され、やりたいことを実現できるということを確認できた症例である。

髙村 悠二

執筆者OKAカイロプラクティック髙村 悠二

東京都出身。理系大学を卒業後、ミュージシャン・音楽講師として活動を始める。活動の中で解剖学や身体の使い方という視点からの上達法をSNSで見て、「体の仕組み」に興味を深め、整体の専門学校に入学。専門学校卒業後、整体師としても働き始め、勤務先でカイロプラクティックに出会う。より本格的な技術と理論を学ぶため、シオカワスクールに入学を決意し、CSセミナーCLセミナーを修了する。勉強していく中で、自分が音楽家として活動するのではなく、カイロプラクティックでサポートしていきたい気持ちが強くなり、音楽講師をやめ、OKAカイロプラクティックに入社。カイロプラクティックの素晴らしさを普及するため日々施術に臨む。シオカワスクールで後進の育成にも携わっている。

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