アメリカ留学記 その2
大学を卒業するためには、別の問題もあった。それは、学校での成績である。
1学期に5教科をとっても1教科落としたら、3ヶ月卒業が遅れてしまう。そのように厳しい環境のため、3ヶ月でクラスメイトがどんどん変わっていく。柔道のクラスを終えるとすぐに帰って勉強しようと思ったが、柔道の生徒がクラスの終わりに、よく私のところに遊びに来た。そのため、勉強できるのは夜の11時頃から夜中の2時ぐらいまでであった。毎朝6時には起きて、7時半から1時間目の授業に出席するため、睡眠時間は4時間ぐらいである。大学が2時半に終わると、1時間ぐらい睡眠をとるようにしたが、なかなか計画通りには行かなかった。
大学から通知があり、プリクォーターをとらなくてもすぐ1学期からスタートしてもよいといわれたが、あえて英語の勉強のためにプリクォーターから学ぶことにした。
寮の隣室には、後の友人となるハンガリー系米国人のフレッド・ボーゴがいた。彼の妻はキャロルといって私によくハンガリー料理を作ってくれた。プリクォーターでのもう一人の友人はボブといって後に中国人の女性と結婚した。
私たち3人は大学の寮で悪友になった。ボブは後にカイロプラクターになることをあきらめたが、私にとてもよい思い出を作ってくれた。
寮に入って一番驚いたのはトイレの扉がなく、開放されていたことである。慣れるのに時間がかかったが、まずまずの寮生活を送ることができた。当時の大学は、机とロッカーがあるだけのとてもシンプルなものであった。私の部屋は6人部屋で、外国人は私とオーストラリア人の2人で、その他は、アメリカのいろいろな州から来た若者だった。親子2代でカイロプラクターになろうとやってきた学生も多かったが、患者としてカイロプラクティックに感銘し、カイロプラクターになるためにやってきた者もいた。
私は戦後初めての日本人の留学生として来ていたので、この見慣れない東洋人を町の人たちは物珍しげに眺めていた。子供たちは私に近づいてきては、英語が分からない私に、英語を教えることを理由にして、私にしきりに子供たちの言う言葉を大きな声で繰り返えさせた。
すると、皆大声で笑う。
私は一生懸命に皆のまねをしては、また大きな声で繰り返すわけであるが、それが汚いスラング(俗語)であると知ったのは、私が寮の同級生にその時に教えられた英語を使った時であった。また、寮には料理するためのキッチンもなく、毎日近くのキャフェテリアやマクドナルド、バーガーキングなどに行って食事をしなければならなかった。
ある時、友達とドライブインのレストランに行くと、ルートビアーなるものに出会った。私がビールは飲めないというと、その友人は、これはルートビアーというソフトドリンクである、と教えてくれた。とにかく経験するものが何もかも新しくて私のように鹿児島の田舎から出てきたものにとってはカルチャーショックなことばかりであった。私はカイロプラクティックを勉強することを目的としてアメリカに来たが、アメリカのライフスタイルや遊びも色々と経験することができた。
パーマー大学では、日本の医学部と同じような科目が毎学期増えていくため、ついていくのが精一杯であった。そのために、アメリカの学生はとても勉強する。試験が近づくと近くのレストランに行って、わずか10セントのコーヒーを注文して朝までがんばる学生がたくさんいた。ウェイトレスはちっとも嫌な顔は見せずに、私たちに何回もコーヒーのおかわりをくれた。
1年目は1,200時間、2年目は1,000時間、3年目は1,080時間、4年目は1,200時間の計4,480時間もの長い間勉強をしなければ卒業することができない。しかも、1学期ごとの中間試験と期末試験に合格しなければ、3ヶ月遅れて卒業しなければならない。1年間に9ヶ月すなわち3学期で、4年12学期で卒業できるが、夏の学期3ヶ月も大学に通うと、3年12学期で卒業できる。私はアメリカでいろいろと経験をしたかったため、4年の12学期すなわち、年4ヶ月は仕事をして生活費を稼ぎながら卒業することを選んだ。
選んだ仕事は皿洗いからバスボーイ、そして夏の子供たちのキャンプのインストラクター、柔道の先生などであった。パーマーの学生は仕事をしながら学ぶ人が多かった。主な仕事は掃除夫、管理人、皿洗い、バスボーイ、ウェイター、バーテンダーなどである。カイロプラクティックの大学で学んだ学問は外科的な手術、薬以外は現在の医学部で学ぶほとんどのものが含まれていた。
そして、卒業すると、ドクター オブ カイロプラクティックの称号がもらえるのである。アメリカでは第一次医療として認められているものは、ドクター オブ メディシン(西洋医学)、ドクター オブ オステオパシー、そしてドクター オブ カイロプラクティックの3つである。
私が最初の1年目に学んだ科目は、化学・生物学・医学用語・カイロプラクティック哲学1・解剖学(筋肉、脊柱学)・組織ー病理学・解剖学(血管学)・衛生学・神経学・カイロプラクティックテクニックなどである。
2年目には、解剖学(発生学)・神経学2・診断学・生理学・病理学・病理学(心臓ー血管)・病理学(小児学)・眼科学・病理学(肺、肝臓)・病理学(腫瘍、免疫学)・微生物学・病理検査学・解剖実習・カイロプラクティック哲学2・カイロプラクティックテクニックなど。
3年目になると,神経生理学、生化学、生理学(内分泌学)・診断学・衛生学2・カイロプラクティック測定器具学(インスツルメンテイション)・レントゲン学(レントゲン物理学)・レントゲン撮影学・クリニックなど。
4年目になると、カイロプラクティック哲学3・臨床診断学・整形外科的診断学・病理学(脊柱奇形学)・心理学・ビジネスアドミニストレーション・毒素学・皮膚学・クリニックなどである。